現在のオシロに関する議論は、プローブから始めるのが適切である。オシロはプローブの先端で被測定物であるデバイスと接触する。過去には、ほんの数MHzが高周波だと思われていた時期があった。今では、ギガヘルツの信号の測定は普通であり、シリアルバスは通常3Gビット/秒以上の速度で信号を伝送する。オシロメーカーは、オシロとプローブの帯域幅を−3dBで、合わせて少なくともビットレートの1.8倍以上とすることを推奨している。つまり、公称ビットレートが3.125Gビット/秒のバスならば、オシロとプローブの合計帯域幅は少なくとも5.625GHz必要となる(公称ビットレートが3.125 Gビット/秒のバスは通常、2.5Gビット/秒で情報を伝送する。なぜなら、データストリームに8ビット/10ビットクロックが埋め込まれて、情報レートは公称ビットレートの80%になるためである)。5.625GHzに最も近いオシロメーカーが公表する帯域幅は、6GHzである。5.625GHzに6.67%のマージンがあれば、プローブにより帯域幅が減少しても大丈夫である。
ここで重要な点がいくつかある。1つめは、このような高速シリアルバスの測定には、差動アクティブプローブが必要である点だ。この速度では、ほとんどすべてのバスが差動方式であり、次のような要因から、信号振幅は小さい。つまり、単一終端回路とは異なり、差動レシーバはコモンモードのノイズを排除する傾向があるため、信号振幅を小さくすることができる。また、差動回路はノイズの輻射が少なく、単一終端回路よりも電力供給線の過渡負荷を少なくすることができる。しかし、信号振幅が小さいと、パッシブプローブに対しては不利に作用してしまい、容量性負荷を減少させるために、通常は入力信号を減衰させてしまう。また、1つの差動信号を見るために2つのオシロ入力を使用することなどは問題外である。そのようなことをすると、オシロのチャンネル数を半減させるだけでなく、周波数に不適切な入力端子対を提供していることになる。その結果、存在しない波形が画面に表示されることになりかねない。
数GHzの帯域幅の差動アクティブプローブは、かなり優れており、数年のうちにさらに高性能になることが予想される。これらのデバイスを設計し特徴を持たせるための最適な方法については、メーカーによって見解が異なるが、次の事実に関してはどのメーカーも同じ意見であると思われる。つまり、数GHzの信号を取得するには、測定する信号にある程度の負荷をかけて、被測定物にプローブを接続しなければならない、ということである。
しかし、負荷をかけることが常に、意味のある観測波形が得られるのかどうか、という点に関しては、メーカーによって意見が分かれる。プローブが最大限の注意を払って設計されていなければ、負荷の影響に意味があるかどうかだけでなく、問題のある波形でもきれいに表示してしまう可能性がある。あるいは、問題のない波形を問題のあるように表示してしまう可能性もあることは否めない。その逆はどうかということに対して、例えば、プローブに起因する誤りがあると、実際には正しい波形でもアイパターンを正しく表示しなかったり、逆にアイパターンが正しくても誤った波形が表示されたりすることがある。
プローブが被測定物に容量負荷をかけることはよく知られている事実である。しかし、プローブの直列インダクタンスもまた、数GHzにおけるプローブの応答を決定する重要な要素である。さらに、プローブの並列容量と直列インダクタンスの共振は、被測定物への負荷と、プローブの周波数および過渡応答の双方により深刻な影響を及ぼす可能性がある。
すべての主要なオシロメーカーによる現在のプロービングシステムに、オシロとプローブ間の双方向通信の機能が含まれている。現在のアクティブプローブは、プローブ先端における波形を増幅あるいはバッファリングした複製を、単にオシロに送ること以上の機能を持ち、また、オシロもこれらのプローブに電力を供給する以上の役割を果たす。例えば、米LeCroy社の最新のプローブは、動的なプローブ校正データを保存する。このデータには、プローブのオフセット電圧やDCゲイン以上の情報が含まれる。つまり、高周波ゲイン、および位相(遅延)に関するデータが含まれている。LeCroy社の製品管理ディレクタであるMike Lauterbach氏によると、超広帯域オシロはすべてのメーカーおよび機種が、DSPに基づく技術を利用して、プローブ一体化アンプの高周波ゲインおよび位相特性を補正している。補正により応答は、4次ベッセルローパスフィルタと同程度にまで改善され、未補正のアンプ応答よりも望ましい応答に近いものとなっている。
しかし、Lauterbach氏が知る限り、LeCroy社のWaveLinkプローブ製品ファミリのみが、現在、補正アルゴリズムによるプローブ応答をもつという。WaveLinkプローブを、互換性のあるLeCroy社製オシロに接続すると直ちに、補正ルーチンがプローブから校正データをアップロードし、プローブのAC特性(工場で測定された値、または最後にLeCroy社製のプローブで特性を測定したときの値)に対するチャンネルの応答を補正する。プローブを校正に含めることにより、LeCroy社は、11GHzのオシロで米Agilent社や米Tektronix社(図1)の競合モデルよりも狭い−3dB帯域幅を提供し、10GHz以上のリアルタイムオシロにおいて、最も高精度な高周波ACおよび過渡応答を実現することができた。LeCroy社(図2)はまた、競合する少なくとも1社とは異なり、現時点ではオシロの帯域幅を拡張するためにDSPを利用していないことを指摘している。
念のために言及しておくが、現在の広帯域オシロは、TR=0.35/BW(ここでTR=10から90%の立ち上がり時間で、BW=−3dBの帯域幅)という昔ながらの数式による、10から90%の立ち上がり時間に関する周波数応答を持たない。また、以下の式によりオシロとプローブの合計立ち上がり時間を求めることはできない。
まずひとつには、各立ち上がり時間の定義が、信号が入力ステップ振幅の10から90%を伝わる時間に対応するのか、それとも20から80%なのかを、データシートの注釈から注意深く調べておくことである。メーカーによっては、両方の立ち上がり時間を指定している場合がある。バスの物理層の規格には、20から80%の値のみを使用しているものもある。この場合に10から90%の値を使用すると、混乱が生じてしまう。また、「どの立ち上がり時間を使用するのか」という問題に加え、新しいオシロの高周波特性の低下が、古い法則のベースとなったアナログオシロのものとは異なるため、古い数式が新しいオシロやプローブには適用できない。大容量メモリーと長い波形記録データにおける暫時的な変則性の検出については、「取得メモリーの容量に関する考察」を参照してほしい。
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