携帯電話機や携帯型音楽プレーヤなどの民生電子機器に搭載されるフルカラーグラフィックディスプレイが最終消費者を引きつけるようになった。組み込み機器の分野にも新しい波が押し寄せている。
製品価格が下落する中、組み込みシステムの設計者はグラフィックディスプレイを利用して操作を単純化し、システムのアップグレードを容易にすることで製品の差異化を図っている。これまでの組み込み製品の設計者は性能を向上させることに重点を置き、ユーザーインターフェースにはそれほど注意を払っていなかった。しかし、今日ではパソコンや携帯電話機、その他の携帯機器に素晴らしいフルカラーグラフィックディスプレイが搭載されるようになり、最終消費者はすべてのエレクトロニクス製品にそれを求めるようになった。ユビキタスネットワーク時代にふさわしいユーザーインターフェースに対するこうした期待が、従来の組み込み設計のルールを大きく変えている。最新の組み込み製品では、プロセッサとメモリーのリソースに対する制約が少なく、アプリケーションよりも通信やグラフィックディスプレイに、より多くのリソースを割り当てることができる。
グラフィックディスプレイを使えば、設計者は1つの命令または機能を順次実行していく、シンプルなユーザーインターフェースを作成することができる。設計者は複雑な補助機能のほとんどを隠すことで操作を簡素化できる。グラフィックディスプレイは製品の第一印象を決めるものであり、自社製品と競合製品との大きな差異化要因となる。設計者はグラフィックを使って製品独自のルック&フィールを作り、同様のテーマで製品ラインを展開することが可能である。グラフィックディスプレイとタッチパネルを組み合わせれば、ユーザーはほぼすべてのフロントパネル構成を試すことができるほか、設計者はファームウエアを修正するだけで機能の追加や変更が行える。
ディスプレイシステムは製品開発期間の短縮や収益増加につながる可能性もある。製品設計では開発期間と搭載する機能が天秤にかけられるのが常だ。使い勝手の良いグラフィックインターフェースとネットワーク接続機能が内蔵されていれば、製品出荷時には基本機能だけを搭載して、その後にネットワーク経由でファームウエアをアップグレードし、機能を追加したり不具合を修復したりすることができるようになる。他のマーケティング戦略としては、機能が制限された機器を低価格で販売し、機能またはサービスを遠隔から有効にするという手法でオプション販売を行う方法が考えられる。どのようなアプローチを取るにしても、しっかりと設計された汎用ハードウエアプラットフォームに、将来のソフトウエアプリケーションに対応できるグラフィックユニットと十分なシステムリソースが備わっていなくてはならない。
ディスプレイベースのインターフェースを組み込み製品に取り入れようとすると、コストと開発期間に大きく影響する。8ビットプロセッサで十分なアプリケーションでも、グラフィックを使うには2つ目のCPUが必要になるか、16ビットまたは32ビットプロセッサにアップグレードしなくてはならない。グラフィックサブシステムはかなりのメモリーとパワーリソースを消費する。従来の組み込みシステムのタスクにグラフィック処理を組み合わせるにも、アプリケーションの処理性能を維持するためにリアルタイムOSを使用しなくてはならないだろう。さらに、ディスプレイユニットには別の電源を用意する必要がある。
グラフィックディスプレイを組み込み機器に統合する方法はいくつかある。最も大胆なアプローチは機器を設計し直して、組み込みタスクとグラフィックディスプレイの両方をサポートできる新しいプロセッサ部を作ることだ。そうすれば後はソフトウエアチームが組み込みシステムに合ったグラフィックライブラリを開発できる。この方法にはおそらく多額のNRE(nonrecurring engineering)コストがかかるだろうが、生産ハードウエアのコストを最小限に抑えつつ最も効率的なシステムを作ることができる。もう少し手間のかからないアプローチを取るのであれば、組み込みプロセッサとの通信チャンネルを備えた外部ペリフェラルとして、グラフィック部を取り扱う方法がある。この方法ならば市販のグラフィック製品やソフトウエア製品を使えるため、開発コストを最小限に抑えることができる。
アクティブマトリクス液晶は、組み込みシステムに最もよく使われる表示装置である。省電力、軽量、高画質、応答速度の速さがその理由だ。2枚の垂直偏光ガラスパネルで液晶を挟み、TFT(薄膜トランジスタ)の行列によって駆動する。電流によって液晶の偏光特性が変化し、セルを透過する光が遮断される。メーカーはこの基本原理を応用してさまざまな組み込みシステムに適した高解像度モノクロ/カラー液晶パネルを提供している。設計者の多くは液晶パネルに抵抗膜式タッチスクリーンや他のさまざまな入力スイッチを組み合わせ、完全なユーザーインターフェースを作っている。
米Eastman Kodak社が20年以上も前に開発したOLED(有機EL)ディスプレイ技術が組み込みシステム分野で脚光を浴びつつある。液晶よりも少ない電力と製造コストで、より明るくコントラストが鮮明なイメージを表示できる可能性があるからだ。
OLEDは金属カソード(陰極)と透明アノード(陽極)で数枚の有機薄膜を挟んでいる。炭素系の薄膜が孔注入層、孔輸送層、発光層、電子輸送層を形成する。色、動作寿命、電力効率は使用される有機材料と層構造によって決定される。OLEDに電圧をかけると、注入された電子と正孔が発光層で再結合して有機電界発光(EL)を起こす。液晶パネルとは異なり、OLEDはそれ自体で発光するためバックライトが不要である。OLEDの欠点は製造コストが高いことと寿命が短いことだ。また水がかかるとマトリクスが簡単に破損する。
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