通常、A-Dコンバータの入力部には、帯域外の信号を遮断するローパスフィルタを配置する。このローパスフィルタのことを「アンチエイリアスフィルタ」と呼ぶ。
一般に、アンチエイリアスフィルタは、オペアンプを使用したアクティブフィルタとして実現する。アクティブフィルタを設計する際には、まず遮断周波数fCUT(一般的には、−3dB減衰する周波数)を決定する。fCUT(ならびに必要な減衰量)を決定すれば、フィルタ設計用のプログラムを利用することにより、フィルタの次数や使用する抵抗/コンデンサの値を決めることができる。高次のフィルタが必要な場合は、図1に示したように、1次のフィルタ、2次のフィルタをカスケード接続することで実現すればよい(各段の1次/2次のフィルタを部分フィルタと呼ぶことにする)*1)。以上の項目を決定したら、残るは使用するオペアンプの選択である。
フィルタ用のオペアンプを選択する際、最初に考慮すべき重要な仕様は、GB積(ゲインと帯域幅の積)とスルーレートの2つである。
まず、オペアンプのGB積については、Qiの値によって基準が異なる。ここで、Qiとはi番目の部分フィルタのクオリティファクタのことである。Qiが1未満の場合には、少なくともオペアンプのGB積fAMPは100×ゲイン×fCUT×ki以上でなければならない。ここで、kiはフィルタ全体のコーナー周波数(折点周波数)に対するi番目の部分フィルタコーナー周波数の割合だ。一方、Qiが1より大きい場合、オペアンプのGB積は、以下の式で求められる。
ここで、aiは部分フィルタの伝達関数のi番目の係数である。
オペアンプのGB積は、各製品のデータシートに記載されているはずなので、それを基に判断すればよい。
続いてスルーレートだが、これについてはフィルタの性能に及ぼす影響を考慮する必要がある。具体的には、スルーレートが不十分なために、フィルタで歪みが発生してしまうという事態を防がなければならない。
スルーレートは、電流値と容量値によって決まる。オペアンプに信号を入力した場合、オペアンプを構成するトランジスタの出力電流により、回路内のコンデンサが充電される。この充電時間がスルーレートを決める大きな要因になる。なお、この充電時間は大振幅の信号を入力したときに大きくなる。また、アンプ内部で使われている容量や抵抗の影響も受ける。
アクティブフィルタの特性が制限されないようにするには、スルーレートがπ×VOUT P-P×fCUT以上のオペアンプを選択しなければならない。ここでVOUT P-Pは、遮断周波数以下に存在する可能性のある信号のピークツーピーク出力電圧を表す。
2次アクティブ・ローパスフィルタの構成方法としてよく使われるのは、サレンキー(Sallen-Key)型と多重帰還型である*2)。それぞれ、オペアンプの使い方としては、非反転型、反転型に対応する。
サレンキー型の場合、入力コモンモード電圧範囲と入力バイアス電流についても考慮する必要がある。この構成では、フィルタの入力信号の電圧範囲が入力コモンモード電圧範囲により制限されるからである。また、入力バイアス電流については、抵抗部分で電圧降下が生じる点が問題となる。この電圧降下は、見かけ上、入力オフセット電圧が増加したかたちで現れる。さらに、サレンキー型の場合、高周波信号のフィードスルーが発生することにも注意しなければならない。
Bonnie Baker
Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com
※1…Mancini, Ron, Op Amps for Everyone, ISBN-0-7506-7701-5, Elsevier-Newnes, April 2003.
※2…Bishop, J, B Trump, and RM Stitt, "FilterPro MFB and Sallen-Key Low-Pass Filter Design Program," Texas Instruments application note SBFA001A, November 2001, www.ti.com.
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