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スマートホンで組み込みシステムを制御する(1/3 ページ)

適切な通信プラットフォームと開発ツールを使えば、組み込みシステムで用いる安価なモバイルユーザーインターフェースとしてスマートホンを活用することが可能となる。

» 2007年01月01日 00時00分 公開
[Warren Webb,EDN]

 スマートホンとは、通信機能、PDA機能、マルチメディアレコーダ&プレーヤ機能、デジタル通信機能、インターネットアクセス機能をポケットサイズの大きさにまとめたもののこと。スマートホンは事実上、PDAを市場から駆逐した。内蔵したプロセッサの処理能力が高くなるに連れ、これまでノート型パソコンを必要としていたような演算処理もスマートホンで行えるようになった。調査会社の米IDC社は、スマートホン(統合モバイル機器)の世界出荷数が2006年第2四半期には1930万台に達したと報告している。前期比1.9%増、前年同期に比べ42.1%の増加である。IDC社では、カナダのRIM(Research In Motion)社が開発/販売している携帯情報端末「Black Berry」、および「Linux」、「Palm OS」、「Symbian OS」、「Windows Mobile」などの高性能なOSを搭載した携帯電話機をスマートホンと定義している。

図1 スマートホンを組み込み機器のコントローラとして使った例 図1 スマートホンを組み込み機器のコントローラとして使った例 MP4 Solutions社のスマートホン用ソフトウエアAirstrip OBを使用すれば、産科医は胎児の心拍数と子宮収縮パターンのデータをリモートで取得できる。

 組み込み機器の設計者が、このスマートホンに内蔵されたグラフィックス機能や高い処理能力、通信方式に着目し始めている。組み込みシステムの中でも、ユーザーインターフェースは開発に労力やコストのかかる部分の1つである。そのインターフェースに置き換わるものとして、あるいはそれを強化するものとしてスマートホンの利用が考えられている。これが実現できた場合、正しくセットアップしさえすれば、スマートホン上で数回クリックするだけで組み込み機器に接続できるだろう。特別なソフトウエアを追加すれば、スマートホンで各社製品のルック&フィールをコピーして、カスタマイズされた組み込みシステムのインターフェースと同様のものを提供できるはずだ。それにより、ユーザーインターフェースの開発にかかるコストと期間の軽減が見込める。

 スマートホンを組み込み機器のユーザーインターフェース(コントローラ)として使える用途は数多くある。産業用コントロール機器、アクセス制御機器、医療機器、セキュリティシステム、環境コントロールシステム、ホームオートメーション機器などが該当する。例えば、米MP4 Solutions社のスマートホン用ソフトウエアである「Airstrip OB」を使えば、産科医は米General Electric社の情報システム「Centricity Perinatal」にスマートホンでリモートアクセスし、胎児の心拍数と子宮収縮パターンのデータを取得できる(図1)。スマートホンにはリアルタイムでそのデータが表示されるため、医師はより頻繁に患者の状態をチェックできる。Airstrip OBを使用する場合、複数の医師が複数の患者のデータにアクセスできるとともに、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律「Health Insurance Portability and Accountability Act」で定められているプライバシーも保護される。Airstrip OBのライセンス料は1ユーザー当たり年間300米ドルまたは月間30米ドルだ。

携帯電話機の柔軟性

 組み込みシステムの設計者にとって、スマートホンは独自に開発したユーザーインターフェース機器に比べて多くの利点を持つ。コストと形状が優位なことは明らかで、加えて設計の柔軟性も高い。1台のスマートホンで複数の組み込み機器を制御することができ、逆に権限を持つ複数のスマートホンで1台の組み込み機器を制御することも可能である。組み込みシステムとスマートホンの能力を組み合わせて、ユーザーは短距離通信技術である赤外線通信やBluetoothに対応した機器、中距離通信技術のIEEE 802.11ネットワーク、あるいは長距離通信技術であるセルラーシステムのいずれかを経由してワイヤレスでデータ通信ができる。

 しかし、スマートホンにも問題は多い。例えば、セキュリティとプライバシーの問題に対処しようとするとソフトウエアが極めて複雑になる可能性がある。また、ユーザーや用途ごとにソフトウエアとデータサービス機能を搭載したスマートホンが必要となる。スマートホンは形状、表示画面のサイズ、プロセッサの動作速度、OSなどの面で仕様がさまざまである。ユーザーは幅広い選択肢の中から自分のニーズに合ったスマートホンを選べるが、その分だけ組み込みシステムの設計者は統合と相互運用性の問題を抱えることになる。さらに、大半の大企業では携帯電話機の種類と通信事業者の選定をIT部門が行っているということも問題となり得る。

 ほとんどのスマートホンはCDMA(code division multiple access)方式、またはGSM(global system for mobile communications)方式のセルラーネットワークに対応している。CDMA方式では、伝送信号の周波数が一定のコードに従ってホッピングし、同一周波数群を使用するレシーバのみが信号を検出できる。CDMA方式では複数の無線で同一周波数チャンネルを共有することが許可されている。世界的に見ると、携帯電話機ではGSM方式が標準的なものとなっており、200カ国以上で20億人が同方式を利用している。セルラー技術の多くは第3世代へと進化し、広い帯域幅を使うアプリケーションに対応すべくデータ通信速度を上げてきた。その例としてはEDGE(enhanced data rates for GSM evolution)やEV-DO(evolution data optimized)がある。

 通信ネットワークを経由してスマートホンを組み込み機器に接続する方法はいくつかある。いずれにせよ、通信用のハードウエア/ソフトウエアを組み込み機器に内蔵し、携帯端末向けのカスタムソフトウエアを開発することになるが、一般的なのは、ウェブサーバー機能を組み込み機器に追加して、インターネット接続機能を内蔵する方法である。組み込み機器側の処理能力と通信ポートが余っていれば、設計者はウェブサーバー用のソフトウエアをファームウエアに直接追加できる。例えば、フットプリントが小さいウェブサーバー「AppWeb」は、組み込み機器を対象としている。このソフトウエアはGNUライセンスに基づいてオープンソースで提供され、開発者のコミュニティがこれをサポートしている。さらに標準ベースのウェブページ作成環境が提供されている。AppWebのソースコードはwww.appwebserver.orgから無料でダウンロードできる。

 拡張性が限られている製品を後日、機能強化するには、片方に組み込み機器へのシリアルインターフェースを、もう一方にイーサーネットインターフェースを搭載したアドオン式のウェブサーバーモジュールを利用すればよい。ウェブサーバーにはネットワーク用のソフトウエアが組み込まれているため、設計者はそれ以外の組み込みシステムの開発に集中することができる。アドオン式のウェブサーバーとしては、米NetMedia社の「SitePlayer」モジュール(価格は30米ドル)や、米Lantronix社の組み込みイーサーネット機器サーバー「Xport」(50米ドル)などが挙げられる。どちらのソフトウエアでも標準的なHTMLオーサリングツールを使ってスマートホンと互換性のあるウェブページを作成することが可能で、ウェブページは機器に内蔵されたフラッシュメモリーに直接ダウンロードできる。その後、標準的なブラウザあるいはスマートホンに搭載されているブラウザを使って機器との通信や制御が行える。

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