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ビデオ配信技術最前線家庭内ネットワークを利用した(3/3 ページ)

» 2007年06月01日 00時00分 公開
[Maury Wright,EDN]
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さまざまなアプローチ

 ビデオ配信技術に取り組む企業の足掛かりとなっているのがカテゴリ5のケーブルだ。新築の家には徐々にこのケーブルが敷設されてきている。そうでない場合は、サービスプロバイダや家の所有者が、カテゴリ5のケーブルを配線し直している。「新たな配線を必要としない」方法としては、ワイヤレスに頼るか、電力線、電話線、あるいはほとんどの家にある同軸ケーブルのいずれかを使用することになる。ワイヤレス市場ではIEEE 802.11(Wi-Fi)が主流だが、UWB(ultra wide band)を支持している企業もある(別掲記事『ワイヤレスビデオ配信』を参照)。HomePNA(Home Phonline Networking Alliance)のグループは、電話線を利用した技術を推進している。

 いくつかの企業や業界団体は、北米の大半の家庭に敷設してある同軸ケーブルを利用しようとしている。例えば、HomePNAでさえも、今ではその技術が電話線と同じように同軸ケーブルでも生かせると主張している。米Coaxsys社も同軸ケーブル対応製品を開発中だ。しかし、同軸ケーブルを利用したホームネットワークの分野では、MOCA(Multimedia over Coax Alliance)に最も勢いがあるようだ。MOCAは、米Entropic Communications社が当初支持していたアライアンスである。一方、電力線を利用する分野では、米Intellon社が主導する HomePlugとスペインDS2(Design of Systems on Silicon)社がそれぞれ異なる構想を掲げている。

 米EDN誌が本稿を企画したときには、2007年1月に米国で開かれたConsumer Electronics Show(CES)の会場に、上述したような技術を組み込んだ民生電子機器が展示されるものと期待していた。会場ではすべてのサービスプロバイダが映像中心のデモンストレーションを行っていたが、その戦略に関してはほとんど何も分からなかった。それでも近い時期に何らかの動きがあると予想される。現時点では、今、何が起こっているのかということに焦点を当てるしかない。

図1 Motorola社のFollowMeTV技術を使った一例 図1 Motorola社のFollowMeTV技術を使った一例 STBをネットワークで結ぶFollowMeTV技術により、消費者は家の中のどこにいても生番組や録画番組を観ることができる。

 Motolora社は、STBメーカーの中でも最も積極的にビデオ配信アーキテクチャを推進している企業だ。同社は家庭内のどこにいても、完全なDVR機能が得られる「Follow Me TV」技術を提供している(図1)。FiOS(fiber optic service)を展開している米Verizon社は、このFollow Me TV技術を利用したMotorola社製のSTBを採用している。

 Verizon社の戦略は、各STBにDVR機能を持たせ、メインのSTBにだけハードディスクを搭載するという比較的単純なものだ。それに対し、 Motorola社はその先まで視野に入れている。Motorola社のChakalos氏は、同社の技術が最終的にはチューニング機能を実現し、家庭内でのストレージリソースになると主張する。同氏のシナリオは、1台のSTBにデュアルチューナとハードディスク1台を組み込み、2台のリモートSTBにそれぞれチューナ1個を組み込むというものだ。Motorola社は、この配信システムを家庭内のどこからでもアクセスできる4チューナ内蔵のDVRシステムとして供給したいと考えている。例えばすべてのライブラリが複数のDVRに内蔵されたハードディスクに分散していて、音楽や写真はパソコンに保存されているとしても、消費者は感覚的には1つのストレージですべてを利用できるような環境を望むだろう。Motorola社はこの一歩進んだ技術を今年中にも米 Comcast社のケーブルサービスで展開したいと考えている。

 今のところ、Motorola社はMOCAの技術をベースとしてFollow Me TV技術を用いたSTBを展開しようとしている。Chakalos氏は、「MOCAの技術は現在、3〜4台までのHDTVをサポートできる」と主張している。MOCAの技術は世界中の多くの地域で受け入れられつつある。しかし同氏は、「当社は『新たな配線を必要としない』ほかの技術もテストし、調査している」と付け加えている。

 Wi-Fi業界では、最終的にはIEEE 802.11nがビデオ配信を可能にすると期待している。802.11e QoSレイヤー規格が確立されればその期待は一層膨らむだろう。しかし、この業界では802.11n規格の策定を巡る議論が続いている。2007年中には最終的な合意に達する見込みだが、家庭内データネットワーキング市場にはすでに「ドラフト準拠」の製品が出回っている。

 そうした中、Wi-Fi技術を使ったビデオ配信で大きな一歩を踏み出した唯一の企業として米Ruckus Wireless社が挙げられる。同社は独自の802.11ベースバンド技術を開発したわけではなく、「BeamFlex」と呼ぶ、スマートアンテナ技術を開発した。この技術は、帯域幅を拡大するマルチセグメントアンテナを利用し、信号の減衰を防止するというものだ。

図2 Ruckus社のMediaFlex製品 図2 Ruckus社のMediaFlex製品 この製品は802.11に準拠しており、マルチセグメントスマートアンテナを使うことで、信号を減衰させることなく長距離のビデオ配信を可能にする。

 Ruckus社のマーケティングディレクタを務めるDavid Callisch氏によると、同社はすでにIPTV市場に対し、サービスプロバイダを通じて10万台の家庭内向けWi-Fiシステム「MediaFlex」システムを提供している(図2)。このシステムがアクセスポイントとクライアント用の機器となる。この製品には米Atheros Communications社製のWi-Fi対応ICが組み込まれている。同社の成功には、北米、欧州、アジアの小規模な事業者がIPTVを展開してきたことが寄与している。

 このほかに2007年に期待できるものとして、AT&T社のIPTVサービス「U-verse」が挙げられる。同社はこのサービスにHomePNAの技術を採用すると表明しているが、実際の運用に関してはまだ初期の段階にある。

 Callisch氏は、802.11nに準拠したRuckus社のプロトタイプ製品であれば、「3つのHDTVストリームを処理できる」と主張している。しかし同氏は、通信事業者や民生電子機器メーカーが2007年中に802.11n対応機器を用いるようになるとは考えていないという。この規格の最終承認が遅れている一方で、チップベンダーからはすでにドラフトに準拠した製品がすでに供給されているため、市場では混乱が生じると予想される。

 ここまでに述べてきた家庭内ネットワーキング技術のすべてがいくらかの市場シェアを獲得するような様相も見受けられる。事実、Motorola社の Chakalos氏は、「すべてが起こり得ると思う」と述べている。その理由の1つとして同氏は、「北米のビデオ配信では802.11nが主流になるだろうが、レンガとコンクリート作りの家が多い欧州の家庭では、ビデオ配信にワイヤレスを使うこと自体が難しいかもしれない」と指摘している。

ワイヤレスビデオ配信

 本編では家庭でのビデオ配信について述べているが、テレビやSTBを接続するためのケーブルをなくすためにワイヤレスビデオ配信に照準を当てている企業もある。すでに2社のUWBサービスプロバイダが、そうしたケーブルの代替技術を発表している。

 米WiQuest Communications社のWireless Digital Video技術は、UWB通信リンクとビデオ圧縮技術を組み合わせ、短距離のビデオ伝送を実現する。

 一方、米Tzero Technologies社は、自社のUWB技術と米Analog Devices社のビデオ圧縮ICを組み合わせることで、家庭内でのワイヤレスビデオ配信を可能にしている。


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