今回は、伝送ラインの終端方法について考える。まず、図1(a)に示すのは、終端を行っていない伝送ラインの例である。この場合、スイッチS1を十分に長い時間閉じておくと、伝送ライン上の各点の電位は0Vに落ち着く。これと同様に、図1(b)に示したように対称終端(テブナン終端)を施した伝送ラインも同じような振る舞いを示す。すなわち、スイッチS2が閉じていると、伝送ライン上の各点の電位は0Vとなる。
このように、これら2つは伝送ライン上の電位に関しては同等であるが、電流については状況が異なる。図1(a)では、ローレベル(0V)に安定した状態では電流は流れない。一方、図1(b)の場合、伝送ラインがローレベルに保持されている間、終端部から相当量の電流が流れる。話を簡単にするために、スイッチは理想的なもので、電源電圧(図のVCC)が2Vのロジック素子を用いて伝送を行うものとし、終端抵抗R1とR2の抵抗値は100Ωだと仮定する。この条件だと、図1(b)の伝送ラインには定常状態で20mAの電流が流れる。
さて、これら2つの伝送ラインはスイッチが閉じている間は定常状態にあるのだが、あるタイミングでスイッチが開くとしよう。図1(a)の伝送ラインにはスイッチが開く前にも電流は流れていない。従って、スイッチS1が開いても何も変化は起こらない。つまり、スイッチS1の開閉は回路の動作に影響を与えないということである。
それに対し、図1(b)のスイッチS2を開いた場合には、図1(a)とは異なる動作になる。上述したとおり、スイッチS2が閉じている定常状態では20mAの電流がスイッチを経由して流れている。この状態でS2を開くと、定常状態が崩れ、伝送ラインの左端での電流値は20mAから0Aに変化する。
この電流値の変化をモデル化すると、図1(c)に示すように2つの直流電流源IBとICを組み合わせた回路として表現することができる。電流源IBは、図1(b)のスイッチS2に流れる定常電流に相当する。この電流源により、ロジック素子がスイッチング動作に入る前の回路の初期条件が決まる。つまり、初期条件では20mAの電流が連続的に吸い込まれる(シンク)ことになる。スイッチS2が開いたタイミングで、電流源IBによる電流は、電流源ICによりステップ状に変化する電流によって相殺される。すなわち、トータルでの電流値は0Aになる。このように2つの電流源を組み合わせることにより、図1(b)においてスイッチS2が開いた瞬間の伝送ライン左端の状況が表現できる。
ところで、20mAまでステップ状に変化する電流を伝送ラインに供給すると、振幅20mA×50Ω=1Vのステップ状の電圧が生成される。この電圧は、伝送ラインの右方向に伝搬していくことになる。この伝搬する電圧は、この2V系のシステムにおいてフルスケールの半分に相当する。
伝送ラインに振幅2Vのステップ信号を入力する場合、言い換えれば電源電圧レベルであるフルスケールまで出力電圧を引き上げる場合には、信号が入力される前の条件はどのようなものが望ましいだろうか。
まず、終端を使用しない図1(a)の場合、フルスケールまで引き上げるに当たっては、ロジック素子の出力段にあるトーテムポール型ドライバの上側トランジスタだけに頼ることになる。すなわち、上側トランジスタは40mAの電流を流さなければならない。この電流レベルは多くのドライバの出力電流能力を超えている。それに対し、図1(b)のように対称終端を使用する場合には、ローレベルの期間は20mAのシンク電流が流れている。トーテムポール型ドライバの下側トランジスタがオフになると、伝送ラインの電圧は自動的にフルスケールの半分のレベルに上昇する。その後、トーテムポール型ドライバの上側トランジスタから20mAを流せば、伝送ラインの電位をフルスケールまで引き上げることができる。
このように対称終端では、伝送ラインは電源電圧の1/2レベルにバイアスされていることになる。そのため、ドライバに必要とされるソース電流(またはシンク電流)は、残り半分の電圧を変化させる分だけで済む。これが対称終端の優れた点の1つである。
Howard Johnson
Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。
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