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デジタルビデオが変える組み込み機器の未来(1/3 ページ)

民生用デジタルビデオの普及によって、組み込み機器にビデオ機能を搭載するための開発ツールやチップ/モジュールなどが安価に入手できるようになった。これらを活用して、新たな製品が生み出されることに期待が集まっているが、デジタルビデオを組み込み機器に搭載するのはそう簡単なことではない。本稿では、技術面で考慮すべき点やビデオ機能がもたらす利点をまとめ、組み込み機器の新たな可能性を探る。

» 2008年05月01日 00時00分 公開
[Warren Webb,EDN]

拡大するビデオの応用範囲

 ビデオは長年、監視システムや工場における検査システムなど、特定の産業用途において中心的な役割を担ってきた。最近では、この状況に変化が生じ、いわゆる組み込み製品分野にも応用範囲を広げつつある。例えば、携帯電話機のような民生電子機器で、画像のキャプチャ機能や動画の再生機能が普及した。それを受けて、デジタルビデオを機器に搭載するのを容易化することを目的とし、低コストのハードウエアやソフトウエアツールが数多く生み出された。

 民生電子機器でのデジタルビデオの普及は、静止画像を表示するだけのユーザーインターフェースには満足していない組み込みシステム設計者の期待をかき立てた。また、一般消費者は、デスクトップ型パソコンや安価なポータブルビデオプレーヤなどに搭載されているものと同等のビデオ機能を、組み込みシステムにも求めている。しかしながら、デジタルビデオを組み込み機器に搭載するのは、上述したハードウエアやツールを用いてもそう簡単なことではない。組み込み設計者は、機器に内蔵するストレージの容量の増大、処理能力の向上、ネットワーク帯域幅の再定義、ディスプレイ特性の再評価、対象製品のリアルタイム性能の改善といった策を施す必要がある。

 民生機器におけるビデオの用途の多くはエンターテインメント向けである。そうした用途とは異なる組み込み機器においても、ビデオの表示が可能になれば、これまでにはない利点が得られると期待されている。

 例えば、ビデオディスプレイは、平凡な製品をより魅力的にし、過度に複雑な機器を簡素化できる可能性をもたらす。機器設計者は、競合製品との差異化を図るために、デジタルビデオを採用することで製品ライン全体に独自の特徴を付加することができる。また、ネットワーク接続機能を有したビデオやグラフィックスベースのユーザーインターフェースは、遠隔からのソフトウエアの更新や機能変更などを可能にする。加えて、あらかじめトラブルシューティング用のビデオを機器に内蔵しておくことで、初期導入コストやサポートセンターへの電話の回数を大幅に減らせる可能性がある。さらには、広帯域幅のビデオストリーミング機能によって、リアルタイムに顧客と対話して操作上の問題を解決したり、欠陥を特定したりといったサポートサービスも行えるようになると考えられる。

 デジタルビデオにはさまざまな種類があるが、どれが最適であるかは、対象とする組み込み機器のシステムリソース、ネットワーク機能、操作モードなどによって決まる。携帯電話機の128×160ピクセルの画面と比べて、HDTV(高品位テレビ)のようなディスプレイ機器で必要となるデータ量と帯域幅が数桁大きいことは明らかである。

 デジタルビデオを搭載するには、既存の組み込みシステムに対して新たなハードウエアやソフトウエアを追加する必要がある。その際には、開発済みのリアルタイムOSや、マルチメディア機能を実現する回路、デバイスドライバを利用すれば、機器の開発時間を短縮することが可能になる。

 デジタルビデオを利用する上で、必須となるものに、圧縮技術がある。ビデオデータを通信チャンネル上で転送したり、ローカルなストレージに格納したりするためには、ほとんどの場合、データを圧縮する必要があるからだ。また、リアルタイムに遠隔地のビデオデータをストリーミングするためには、ローカルサーバーやインターネットへの高速ネットワーク接続が必須となる。以下では、こうした事柄を含め、デジタルビデオと組み込み機器を結び付ける上で必要となる技術についてまとめ、これからの組み込み機器の可能性を探ってみたい。

データの圧縮

 どのような組み込みビデオシステムの設計においても、最初に考察すべき項目の1つは、圧縮伸張アルゴリズムとコーデックを実行するために必要な演算リソースを用意することだ。例えば、典型的な非圧縮テレビ映像ストリームでは、20メガバイト/秒以上のデータ速度と、30分に相当するビデオデータを保存する場合で36ギガバイト以上のストレージ容量が必要となる。使用するアルゴリズムとコンテンツによっては、ビデオデータを圧縮することで、必要な帯域幅とストレージ容量を約1/30まで削減することができる。

 典型的なビデオ圧縮アルゴリズムでは、画像を小さなブロックに分割し、コサイン変換により各ブロックを周波数領域表現に変換する。転送や保存が終わったら、逆コサイン変換により、周波数係数を基に画像ブロックのデータに戻す。コサイン変換と逆コサイン変換は、処理能力に対する要件の面では似ており、どちらも典型的なDSPにおいて数百命令サイクルしか必要としない。

 現在、最もよく利用されている画像/ビデオ圧縮規格を定義/管理しているのは、ITU(International Telecommunications Union:国際電気通信連合)とISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)の2つの主要機関である。ITUは、電気通信分野を専門とし、ビデオ電話技術に対するH.26x規格をサポートしている。一方のISOは、ビデオ用のMPEG規格など、民生機器分野を対象としている。

DRMへの対応

 コーデックに加え、デジタルビデオを搭載する組み込みシステムは、著作権保護されたデータを処理するために、DRM(digital rights management:デジタル著作権管理)ソフトウエアを搭載しなければならなくなる可能性がある。DRMは、著作権の保護と、著作権所有者が定めるその利用に関する制約の遵守を目的とした体系である。例えばDRMによって、ビデオデータに対し、いつ、どこで、何度再生できるといった制限が設けられている場合がある。

 エンコーダとデコーダでは、データ速度が低い個所でDRMを使用する。その詳細についてはあまり公開されていないが、ほとんどのDRMアルゴリズムはコーデックほど複雑ではなく、実装するのは容易である。

 米Microsoft社のOS「Windows Vista」には、PVP(protected video path)システムが搭載されている。これにより、無署名のソフトウエアの実行中にはDRMによって保護されたコンテンツの再生を防止することができる。PVPは、モニターやグラフィックスカードに転送するデータを暗号化することを可能とし、不法にコピーすることを困難にする。

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