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計測/テスト分野で進むWiMAX対応(2/2 ページ)

» 2008年08月01日 00時00分 公開
[Rick Nelson,Ron Wilson,EDN]
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デジタルテストに大きな変化なし

 WiMAX対応ICのテストは、機能ブロック単位で容易に行える部分とそうでない部分がある。例えばデジタルベースバンド部は、テストの観点から言えば高速な信号処理プロセッサと同じようなものである。この点について、米Intel社のエンジニアリング広報担当者は、以下のように語る。

 「WiMAX対応ICのテストは、当社で実施しているほかのSoC(system on chip)製品のテストとそれほど異なるものではない。SoC製品では、広範囲な温度、電源電圧の条件下で、ウェーハテスト、ESD(electro static discharge:静電気放電)ストレステスト、バーンイン、アナログ/ミックスドシグナルテストといった、当社の厳しい信頼性/品質ガイドラインに従ってテストが行われる。WiMAX対応ICに対しても、実速度スキャン、ATPG(automatic test pattern generation:自動テストパターン生成)、ロジック/メモリーのBIST(built in self test:内蔵自己テスト)など、SoC設計に共通のDFT(design for testing)手法を利用することができる。テスト工程では、パッケージの品質検証や、通常のシリコンロットに加え、複数のスキューロットでの性能テストも実施される」。

 デジタルベースバンドICは、(特殊な部類にはなるが)プログラマブルな信号処理プロセッサである。判定基準は、正しく動作するかしないかの2つに1つだ。設計者は用途に合わせてソフトウエアを調整する必要があるが、これはテストにおける課題ではない。

やはり、問題なのはアナログ

 RFチップのベンダーと話をすると、別の観点からの問題に気付かされる。デジタルの世界では、チップのばらつきが、(もちろん、電源電圧の動作保証範囲などの要件は満たす必要があるが)機能的な面に影響を及ぼすことはない。それに対し、RF/アナログの領域では、チップにおけるばらつきが、(チップのスペックの範囲内に収まっているとしても)チップの性能のばらつきに直結する。昔からよく言われているとおり、デジタル回路は機能テストでよいが、アナログ回路では特性評価が必要である。この違いにより、WiMAXのような新しい技術に対するテストエンジニアの対処方法は変わってくる。

 米Analog Devices社でWiMAXシリコンプログラム担当ビジネスディレクタを務めるTom Gratzek氏は、「WiMAXの各周波数帯域、帯域幅要件、ベースバンド部のフィルタリング方法に対応するために、多種多様な手法が用いられている」と述べる。同社は、RF段、ミキサー、A-Dコンバータ、D-Aコンバータ、デジタルフィルタから成るWiMAX向けのフロントエンドチップを提供している。Gratzek氏によると、そのチップのデジタル部分は、ほかのデジタル回路と同様にスキャンベースのBISTでテストしている。しかし、その後の作業は複雑なものになるという。

 Gratzek氏は、「アナログ信号チェーンに欠陥がないか否かを精査しなければならない。それだけでも数百ミリ秒ものテスト時間が必要となる。また、顧客のシステムに搭載した際にチップがどのような特性で動作するかを判断するには、実速度でチップを動作させる以外に方法がない」と述べる。「そのテストで行うことは、特性評価のそれとは異なる。テストプログラムは、実験室レベルでのスキューロットの完璧な特性評価、数回のテストによって多くのことを成し遂げるテストエンジニアの優れた能力、顧客の要望を受けて設計を担当するアプリケーションエンジニアからの連続的なフィードバックに基づいた、巧妙な折衷策なのだ」(同氏)という。Analog Devices社のテストでは、帯域が2GHz〜5.9GHz、3GHz〜5.9GHz、4.9GHz〜5.9GHzのテスト信号でレシーバを駆動し、それに対応するデジタルベクターでトランスミッタを駆動する。「各帯域で、3種の周波数掃引を実施する。残念ながら、この方法では、汎用大型コンピュータをベースとしたRFテスターが必要となる。また、テスト時間が数秒長くなってしまう」とGratzek氏は述べる。

 このような方法をとるのは、Analog Devices社だけではない。ドイツInfineon Technologies社のエンジニアも、「通常、WiMAX対応ICは実速度でテストする」と述べている。同社は、開始点が4MHz、帯域が3.5MHzの64 QAM(64 state quadrature amplitude modulation) rate 2/3という標準的な方式を採用している。しかし、「広帯域ビデオ(video over broadband)を対象とする顧客から、『帯域幅を10MHz、さらには20MHzにまで拡大してほしい』という要望が高まっている。これに対応するには、チップはもちろんテストプログラムも含めてすべてに変更が必要になる」(同氏)という。

 なお、汎用大型コンピュータをベースとしたRFテスターに移行したとしても、それは完全な解決策にはならない。Gratzek氏によると、Analog Devices社は、すでに同社の複雑なテスターのハードウエアに、カスタムのスペクトル解析機能を追加した。その装置では、テストカバレッジの拡大とテスト時間の短縮を実現するために、内蔵するチップやDUT(device under test)用のボード/カードに同社独自の回路機能も搭載しているという。これにより、テストチームは、例えばレシーバ側でエンドツーエンドのテストを実施するために周波数を掃引することが可能となり、アンテナ入力をLNA(low noise amplifier:低ノイズアンプ)に接続したり、A-Dコンバータからの出力データを用いてEVMやノイズ特性を解析したりすることができるようになる。

 このような機能によって、各チップに対するGO/NOGOの判定が行える。例えば、エンドツーエンドのテストにより、A-DコンバータのS/N比(信号対雑音比)やリニアリティを算出することができる。また、高度なデジタルコンフィギュレーション(構成)が行えるRF設計により、テストチームはさらに詳細な情報を抽出することが可能になる。Gratzek氏は、「自動ゲイン制御ループを手作業で、しかもテスト中に制御できる。信号チェーンの出力においてデジタルフィルタをバイパスし、フィルタ処理を施す前のデジタルデータにアクセスすることも可能だ。また、アナログフィルタをある特性に調整し、LNAのゲイン設定を変化させるといったことも行える」と述べる。この方法では、必要に応じ、製造テストにおいて、エンドツーエンドのテストからほとんど特性評価レベルのテストへと移行することも可能である。

 このような柔軟性には価値がある。Gratzek氏は、「われわれは多種多様な顧客の評価ボード向けにWiMAX対応ICを提供している。顧客はそれらをさまざまな方法で使用する。アプリケーションエンジニアはテストチームにテスト用のデータを渡し、顧客のアプリケーションで求められる性能に合わせてテストの内容を調整する。例えば、多くの顧客は、ボードやアンテナにおいて必要となるEVMを達成するために、フィルタの設定を変更する。われわれは、その構成に合うようにテストの調整を行うわけだ」と語る。

計測器メーカーは「対応済み」

 テスト機器を提供する企業は、WiMAX対応のテストの効率化を目指している。アドバンテスト、Teradyne社、Verigy社などのATEベンダーは、複数サイト構成のWiMAX機器に対応できるようにテストシステムを改造している。Verigy社のSmith氏は、「WiMAXに特に目新しい部分はない。UWBでは新しいスペクトルを扱うが、WiMAXは割り当てられたスペクトルのより効率的な使用を目的としたものだ」と語る。

 WiMAX対応ICのテストは、Verigy社が2007年夏に同社のテストシステム「V93000」向けに発表した測定装置「Port Scale RF」の能力の範囲内で実施できる。同様に、アドバンテストが2007年秋に同社のテストシステム「T2000」向けに発表したRFモジュール「12GWSGA」や、Teradyne社が2008年3月に発表した「UltraWave」も、WiMAX対応ICのテストに対応している。

 一般的に、IC向けのATEシステムでは、ベンチ型やラックマウント型の測定装置と同等の性能を必ずしも提供することなく、高いスループットを実現することに重点が置かれてきた。しかし、「WiMAXの出現により、その状況は変わりつつある」とTeradyne社のHarvey氏は述べる。同氏によると、測定要件が非常に厳しくなってきており、ATEシステムにも、ベンチ型/ラックマウント型装置と同様の測定能力が必要になっているという。同氏は、「高性能のATEシステムであれば、チップのテストだけでなく、特性評価も可能だ。それにより、製造テストへの移行がスムーズになるという利点もある」と述べた。

 アンリツ、Agilent社、Aeroflex社、米Tektronix社、ドイツRohde&Schwarz社などの企業は、いずれもWiMAX対応の専用ハードウエア/ソフトウエアと同様にWiMAXシステムのテストを実施可能な汎用のテスト/測定装置を製造している。

写真1 Rohde&Schwarz社製の製造テスト用テスター「CMW270」 写真1 Rohde&Schwarz社製の製造テスト用テスター「CMW270」 WiMAX端末とCPEのシグナリング/ノンシグナリング測定が行える。 

 例えばTektronix社は、WiMAXのプロトコルに対応したシミュレーション、エミュレーション、モニタリングが可能なプロトコルアナライザ「K1297-G35」を提供している。また、同社は、自社のリアルタイムスペクトルアナライザ用に、WiMAX向けの設計における問題の検出、診断、解決を支援するソフトウエア「RSA-IQWiMAX」も提供する。

 Rohde&Schwarz社は、製造向けテスター「CMW270」(写真1)とWiMAX対応の無線認証テストシステム「TS8970」を提供している。アンリツは、シグナルアナライザ「MS2690A」(写真2)やベクトルシグナルジェネレータ「MG3700A」などベンチトップ型の信号生成/解析機器や、固定/モバイルWiMAXに対応可能な携帯型スペクトルアナライザ「MS2724B」を提供している。

写真2 アンリツのシグナルアナライザ「MS2690A」 写真2 アンリツのシグナルアナライザ「MS2690A」 50Hz〜6GHzに対応し、モバイルWiMAX機器の送信強度を測定することができる。 

 Aeroflex社のArgent氏によると、同社は、PXI(PCI extensions for in

strumentation)と従来のラックスタック型のWiMAXテスト装置を組み合わせ、WiMAX基地局や携帯機器のライフサイクル全体を網羅する形で提供しているという。

 同氏は、「ベンダーはWiMAX Forumの認定ラボにWiMAX機器を提出する前に、その機器が1回で認定を取得できるよう社内でテストを実施しておくとよい」と述べる。「WiMAX Forumの認定ラボでは、1時間当たり約500米ドルの課金が行われる。従って、顧客は製品が迅速に認定されるように、最大限の準備をしておくべきだ」と同氏は語る。

写真3 Agilent社のWiMAXテストセット「E6651A」 写真3 Agilent社のWiMAXテストセット「E6651A」 プロトコル準拠テスト、基地局のエミュレーション、RFパラメータ測定をサポートする。

 Agilent社の製品は、同社EEsof部門の設計/シミュレーションソフトウエア「ADS(Advanced Design System)」からテストシステムまで多岐にわたる(写真3)。またAgilent社は、同社の「Connected Solutions」技術によってADSに接続可能な信号生成/解析装置や、ベースバンド開発/トラブルシューティング向けのWiMAX対応プロトコルアナライザとロジックアナライザも提供している。

 チップ、モジュール、機器、そしてインフラの設置/メンテナンスにかかるテストコストは莫大である。Analog Devices社のGratzek氏は、チップメーカーの観点から、コストの問題について次のように述べた。

 「われわれのGSM(global system for mobile communication)製品ラインでは、市場が成熟するに連れ、テストコストをかなり削減できた。WiMAXに関してはまだそのような段階にはないが、計画はできている。われわれは、最初からその計画を達成するための方法を念頭に、テスト戦略を構築している。技術が成熟すれば、テストコストを3桁削減することも可能だろう」。

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