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昇降圧型コンバータの基本を知るその使いどころから各方式の特徴まで(2/2 ページ)

» 2008年09月01日 00時00分 公開
[Paul Rako,EDN]
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各種の実現方式

 昇降圧型コンバータの応用分野がこれほど広いことを知ると、アナログエンジニアであればこれについてもっと深く理解したいと考えるだろう。そこで、続いては昇降圧型コンバータの基本的な実現方式について説明する。

 まず、昇降圧型コンバータと似てはいるものの、ほかのカテゴリに分類されるものがあるので、それについて確認しておこう。入力電圧が出力電圧の上下に変動しても、固定の出力電圧を供給できるものとして、絶縁型フライバックコンバータがある。しかし、通常、これは昇降圧型コンバータには分類されない。また、オフライン電源におけるPFC(power factor correction:力率改善)回路も同様の例である。1段目は昇圧型コンバータで、2段目は降圧型コンバータだが、この構成を昇降圧型コンバータと見なすエンジニアはほとんどいない。さらに、米National Semiconductor社の「LM3355」のようなスイッチドキャパシタ方式の昇降圧型コンバータもあるが、「昇降圧型」という語からは、誘導型コンバータを連想する人が多い。米TESLAco社の絶縁型製品「TeslaConverter」なども昇降圧機能を有するが、昇降圧型コンバータとは見なされないことが多い。

 それでは、以下、昇降圧型コンバータの実現方式を順に確認していこう。

■典型的な昇降圧型コンバータ

 典型的な昇降圧型コンバータは、図2(a)のように極性(正負)反転構造を持つシングルスイッチの構成をとる。入出力電圧のいずれかまたは両方が変動するような条件においても、出力電圧(の絶対値)を入力電圧より高くも低くもすることができる。スイッチが閉じている間に、インダクタはエネルギを蓄積する。スイッチが開いても、インダクタは引き続き電流を流そうとする。そのためインダクタのスイッチ側が負となり、インダクタの電流によって、出力コンデンサが入力電圧に対して負の電圧に充電される。例えば、入力を5Vとした場合、この回路では−4Vや−6Vといった出力を得ることができる。

 ほかの多くの電源回路と同様に、シングルスイッチのコンバータにも多数のバリエーションがある。例えば、図2(b)のように各部品の配置を変更することにより、負から正への昇降圧型コンバータを構成することもできる。

 なお、昇降圧型コンバータは、簡単な昇圧構成や降圧構成と同様に、連続モードでも非連続モードでも動作することが可能である。

図2 昇降圧型コンバータの構成例 図2 昇降圧型コンバータの構成例  古くからある典型的な昇降圧型コンバータでは、入力電圧に対して出力の極性が反転する(a)。(b)のような構成にすれば、負の電圧から正の電圧を生成することもできる。
図3 Cukコンバータの構成例 図3 Cukコンバータの構成例  Cukコンバータでも、出力の極性が反転する。この構成のメリットは、2つのインダクタを用いることで、入力/出力コンデンサに対する高速な電流変動を低下させられることである。

■Cukコンバータ

 上述した典型的な昇降圧型コンバータの欠点の1つは、トランジスタQ1のスイッチング動作により入力コンデンサ側に大きな電流リップルが生じることだ。この問題を解決するために、1976年、カリフォルニア工科大学のSlobodan Cuk教授は「Cukコンバータ」を発明した(図3*1)*2)

 Cukコンバータは、インダクタを1つ追加してスイッチ(トランジスタQ1)をインダクタで囲む構成となっている。エネルギの伝送用にはコンデンサを使用する。入力コンデンサがインダクタのスイッチングしない側にあるため、原理的に生じる3角波よりも高速に入力電流が変化することはない。同様に、出力コンデンサは2つ目のインダクタのスイッチングしない側に接続する。電流の3角波はこのコンデンサの充電にも使われ、リップル電圧は低くなり、コンデンサからの発熱も少なくなる。

 この構成では、インダクタを2つ使用するのでコストが増えるが、値の小さいコンデンサを入出力に使用することが可能なので、それによりコスト増を抑制することができる。コンデンサの電流変化が緩やかなので、EMI(electromagnetic interference:電磁波干渉)やRFI(radio frequency interference:無線周波数干渉)が小さく、自動車用途などにも適したものとなる。また、入力電流の変化が緩やかであることから、入力コンデンサを省くことも可能である。

図4 SEPICの構成例 図4 SEPICの構成例  SEPICでは、極性を反転させることなく昇圧/降圧が行える。

■SEPIC

 典型的な昇降圧型コンバータとCukコンバータに共通する1つの制約は、入力電圧に対して出力電圧の極性が反転してしまうことだ。この点を解消しているのがSEPIC(single ended primary inductance converter)である。

 SEPICもCukコンバータと同様に2つのインダクタを用いる(図4)。SEPICでは、インダクタとダイオードの位置を入れ替えることにより、出力電圧が正になるようにしている。ただし、欠点もある。インダクタとダイオードの位置がCukコンバータと逆であるため、出力コンデンサに加わる瞬間的な電流変動が大きくなるのだ。

 SEPICは非反転の出力電圧を供給するので、ほぼすべての昇圧型コンバータICはSEPIC構成に置き換えることができる。Linear Technology社の「LT1513」など、部品のカテゴリ名として「SEPIC」を用いている製品もある。

 CukコンバータとSEPICに共通する利点の1つは、エネルギを入力から出力へと伝送するコンデンサが存在することから、電力がコンバータ側に逆流しないことである。電池の充電においては、この特徴が大きなメリットとなる。すなわち、電池からの電流がコンバータを通ってその入力へと逆向きに流れることをコンデンサが防いでくれるのである。

図5 4スイッチコンバータの構成例 図5 4スイッチコンバータの構成例  4スイッチコンバータでも、出力の極性は反転しない。しかも、ほかの構成よりも効率が高い。

■4スイッチコンバータ

 入力電圧と出力電圧の極性が同じであることが求められるほかの例としては、4.2V〜2.5Vのリチウムイオンセルの電圧を3.3Vに変換する回路がある。この用途にSEPICを適用することもできるが、SEPICの効率は一般的に82〜85%程度しかない。リチウムイオン電池から最大限のエネルギを得たいなら、この効率では不十分である。

 このような場合には、4つのスイッチを使用する同期式昇降圧型コンバータ(以下、4スイッチコンバータ)を検討するとよい(図5)。この構成ではインダクタは1つしか使わないが、4個のトランジスタを使用することで、インダクタが入力電圧によって昇圧型または降圧型のコンバータ用のものとして機能するようにしている。入力電流と出力電流のリップルはCukコンバータよりも大きくなるが、現在の携帯機器は、ESR(equivalent series resistance:等価直列抵抗)とESL(equivalent series inductance:等価直列インダクタンス)が小さいセラミックコンデンサを使用することが多いため、リップル電流による電圧変動は低く抑えられる。

 4スイッチコンバータにおいて問題となるのは、その制御方法である。2つのスイッチが昇圧モードと降圧モードの切り換えを担い、残りの2つは同期式昇圧型コンバータあるいは同期式降圧型コンバータと同様に、同期式整流器として働く。4スイッチコンバータでは、昇圧モードと降圧モードの間で切り換わるとき、4個のスイッチのすべてがシームレスに切り替わらなければならない。

 携帯機器市場は製品の販売数が多く利益のマージンも大きい分野なので、多くのベンダーが4スイッチコンバータの事業に参入している。米Texas Instruments社のアプリケーションマネジャであるMichael Day氏は、「われわれは、従来の4スイッチコンバータの構成を変更し、昇圧と降圧を実現する2つの制御ループに分割している。このようにして制御システムを最適化することにより、3.6Vの入力電圧に対して最大の効率を実現している」と語る。

 Day氏によると、従来の4スイッチコンバータの中には、入力電圧と出力電圧の値が近い場合に4個のスイッチがすべて同時に動作するものもあるという。TI社の「TPS63000」は、2つの制御ループを用いて昇圧スイッチまたは降圧スイッチを動作させるが、4個すべてを同時に動作させることはない。この方法により、TPS63000の効率は広範囲の入力に対し95%以上となっている。昇圧動作と降圧動作の間で切り替えが生じるとき、4個のスイッチすべてが同時に動作しているように見えるかもしれないが、実際には昇圧/降圧のうちいずれかのサイクルを実行してからもう一方のサイクルを実行する。入力電圧と出力電圧に差が生じると、すぐに一方の動作モードに入り、4つのスイッチは決して同時に動作することはない。

 同様の製品として、Linear Technology社は「LTC3440」を供給している。10個以上の部品を含む製品で、2001年に発売された。同社は、常に93%以上の効率を実現するモジュール「LTM4605」も提供している。さらに、コントローラICの「LTC3780」は、入力を最大36Vとすることが可能であり、車載用途や産業分野で使用することができる。

 リチウムイオン電池を使用する用途は増加している。そのため、多くのアナログICベンダーが電池の電圧を昇圧/降圧するための製品を製造している。例えば、Analog Devices社はスイッチング周波数が2.5MHzの4スイッチコンバータ「ADP2503」と「ADP2504」をリリースした。これらの製品は、過渡応答を改善するために平均電流モードのアーキテクチャを採用している。負荷に対する調整機能に優れ、急峻な電流に対するオーバーシュートも防ぐ。ADP2503は、同ジャンルのほかの製品と同様に、1セルのリチウムイオン電池で動作することができ、92%以上の効率を実現する。静止電流(無負荷時の消費電流)も少ないため、出力電力レベルが低くても高い効率を維持することが可能である。また、National Semiconductor社の「LM3668」は、リチウムイオン電池からの電圧を基に3.3V程度の電圧を生成する製品であり、出力電流は1A、スイッチング周波数は2.2MHzである。


 本稿で述べたように、ICベンダーはシステムの複雑さと設計上の問題を緩和するためにさまざまな製品を提供している。これにより、システム設計者は昇降圧型コンバータの制御アルゴリズムの詳細を気にすることなく、最終製品の設計に集中できるようになった。Cukコンバータ、SEPIC、4スイッチコンバータなどは、いずれも一般的な降圧型レギュレータと同様に簡単に使用できるものとなりつつある。機会があれば、ぜひこれらのコンバータについても検討してみてほしい。

脚注

※1…"Cuk converter", http://en.wikipedia.org/wiki/Buck-boost_converter

※2…Middlebrook, RD, and Slobodan Cuk, "A general unified approach to modelling switching converter power stages," International Journal of Electronics, Volume 42, Issue 6, June 1977, p.521


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