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車載リチウムイオン電池の量産を全自動ラインで垂直立上げオートモーティブエナジーサプライ 代表取締役社長 大塚 政彦氏

自動車メーカーはゼロエミッションの達成に向けて、排出ガスがない電気自動車の製品化に注力している。その中核となる部品の1つがリチウムイオン電池である。オートモーティブエナジーサプライ(以下、AESC)は、2007年4月に日産自動車とNECグループの折半出資会社として設立され、2008年5月に自動車向け高性能リチウムイオン電池の事業化を決定した。新会社は全自動の生産ラインを導入し、垂直立ち上げで需要の拡大に対応していく。AESCの社長を務める大塚政彦氏に、生産システムに対する考え方などを聞いた。

» 2008年09月01日 00時00分 公開
[Automotive Electronics]

 2007年4月に会社を設立し、事業化が決まるまでの1年間は、次世代電動自動車の動向や業界における当社製品のポジションを見定めてきた。

 2007年半ば以降、電気自動車(EV)が発表されたことや、地球環境問題に関して、二酸化炭素(CO2)排出削減に向けた具体的な規制が話題になってきたこともあり、二次電池の需要も大きく伸びる可能性が出てきた。市場の動向などを見極めながら、事業としては慎重に取り組まなければならないが、逆に慎重になりすぎて他社に後れを取るのも怖い。今回、競争力のある製品を早期に出荷できるめども立ち、リチウムイオン電池の事業化を決断した。


マンガン正極で寿命も改善

オオツカ・マサヒコ 1978年日産自動車に入社。以来、オーストラリア、英国、スペインなど海外の生産子会社で長年、生産管理の業務に従事。2000年3月に帰国し生産管理部主管、2002年に原価低減推進室長、2005年4月にジャトコのバイスプレジデント。2007年4月からオートモーティブエナジーサプライの代表取締役社長。現在に至る オオツカ・マサヒコ 1978年日産自動車に入社。以来、オーストラリア、英国、スペインなど海外の生産子会社で長年、生産管理の業務に従事。2000年3月に帰国し生産管理部主管、2002年に原価低減推進室長、2005年4月にジャトコのバイスプレジデント。2007年4月からオートモーティブエナジーサプライの代表取締役社長。現在に至る 

 車載二次電池を手がける企業は世界に10社以上あり競争は激しい。各社の製品には、カタログに公表されていない部分も含めてそれぞれ特徴があり、当社の製品がどのようなポジションにあるのかをこの1年間で調査し確認してきた。当社の製品は正極材料にマンガン系を採用している。この理由は、コバルト系やニッケル系の材料を使った場合に比べて、過充電に対する安全性が高く、材料コストも安いからだ。課題とされてきた容量劣化の問題についても、NECが2007年に特許取得している水素イオン捕捉剤で対応することで、車載用途にも対応できる寿命を確保できた。これらの特徴は競合メーカーの製品に対する当社の強みであると確信している。

3年間で120億円を投資

 他社と競争していく上で、もう1つ重要なことは、自動車メーカーの量的要求にタイムリーに応えていくために、サプライチェーンを含めた製品の供給体制を構築することである。AESCでは、リチウムイオン電池の量産に向けて、今後3年間で120億円を投資し、日産座間事業所内に量産ラインを新設する。この新規ラインは2009年夏ごろまでに稼働させる予定で、年間生産能力は自動車1万3000台分となる。最初に量産するリチウムイオン電池はエネルギ密度を重視した製品で、当初はフォークリフト向けに供給していく。出力密度を重視したハイブリッド車向けの製品も用意している。小規模だが、あるハイブリッド試作車には当社のリチウムイオン電池がすでに搭載されている。また、2010年度内には、日産独自のEVやハイブリッド車向けにも、AESCで生産した製品の供給が始まる予定だ。それ以外でもさまざまな会社との開発プロジェクトが始まる。このため、2009年には各開発プロジェクトに向けた試作品を供給していく必要があり、その対応にも取り組まなくてはいけない。そして2010年から新規ラインの生産体制を順次拡充して、2011年度内には年間生産能力を6万5000台分まで引き上げていく計画である。

 新しい生産ラインの垂直立ち上げを行うには、生産技術を早期に確立していくことである。その上、自動車メーカーの生産システムに合わせた供給体制を構築していけるかどうかがAESCの大きな課題の1つと考えている。そのためには最初の生産ラインの立ち上げが重要で、これが成功すれば、それと同じ生産ラインを増やしていくだけで需要の増加に応えられる。私自身、日産に入社して以来、海外工場も含めて生産管理部門が長く、かつては新工場の立ち上げなどにもかかわってきた。これまでの経験と知識を新規ラインの構築に生かしていくのが私の使命だと考えている。

自動化ラインで高品質、低コスト化

 当社の生産システムの最大の特徴は生産ラインを完全自動化することだ。これによって、従業員は200人程度で済む。競合他社の多くは1000人を超える規模となっているが、それは労務費の安い中国に工場進出し、人海戦術で電池セルの生産を行っているためだ。確かに中国の労務費は安く有能な人材も多いが、多くの作業者が生産に携わると熟練度のバラツキによる不具合が発生しないとも限らない。NECグループは、2000年に大型ラミネート型リチウムイオン電池を商品化している。ラミネート型にすることで、シリンダ型に比べて部品点数を削減できる上、放熱性にも優れている。しかも、生産工程で汚染物質などの混入を防止するためにも、全自動で生産したほうが高い品質を保つことができると判断した。

 生産コストについても、大量に消費される部品であれば、人海戦術で作るより、全自動で24時間生産できるシステムで量産したほうが生産コストは安くなることがわかった。

海外生産も視野に

 さらに、供給能力の拡大が必要となった場合は、製品の物流も考慮して消費地の近くで生産することになるだろう。そのためにも、まず座間事業所内に設置した自動生産ラインで生産技術を磨き、完成度が高まればその生産システムをそのまま新たな工場に移管すればよい。その時の生産拠点は国内にこだわるつもりはない。

 二次電池の技術は日本以外の自動車メーカーにとっても重要である。だから、リチウムイオン電池の海外生産も単純なアセンブリだけでなく、例えば米国など需要のある場所(国/地域)で一貫生産していく。将来的には研究/開発も含めて現地化することになるだろう。海外生産を検討しているもう1つの理由として、輸送コストの問題がある。自動車向けリチウムイオン電池は、パソコン用や携帯電話機用に比べてリチウムの含有量が多いため、それを部品やモジュールとして輸送する場合には、安全性の面で厳しい規制が設けられている。現在はかなり高価な特殊容器に入れて搬送しているが、今後日本からリチウムイオン電池を全世界の市場に供給することになれば、その輸送コストだけでも大変なことになる可能性があるからだ。

(聞き手/本文構成:馬本 隆綱)

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