プリント配線板上で、テスト用の端子やビアを備えていないマイクロストリップラインにプローブを当てたいケースがある。その場合、基板の表面を覆うはんだマスク(保護膜)を除去する必要がある。そのための方法としては、以下の6種類が挙げられる。
最後に挙げた「紫外線を照射する」という方法(例えば、米国特許No.7081209の方法)は、筆者にとってはぞっとするものである。この方法は、かつて高出力CO2レーザー装置のラベルに記載されていた「開口部を正常な眼では覗き込まないこと」という警告を思い出させる。それでなくても、筆者の実験室には危険なものが数多く置いてあり、これ以上は増えてほしくない。
5つ目の「化学的に除去する」方法は、少し魅力的なものに映るかもしれない。しかし、例えばアンティックのいすの表面の汚れを似たような方法で除去した経験がある人なら、そうは思わないだろう。この方法は、汚れ(プリント配線板の場合は表面の保護膜)の種類が何であるかが正確にわからなければ効果的には使えない。この方法をプリント配線板に適用しても、おそらくパターン上にねばねばとしたボール状のものが形成されるだけだろう。保護膜については、昨今、関連メーカーが鉛フリーめっきにおいてスズがひげ状に異常成長すること(ウィスカ)を防止するために、さまざまな技術を開発している。それを踏まえると、化学的に除去する方法は適切なアプローチとは言えない。
これら2つの手法を除くと、残る4つは機械的手法ということになる。「微粒子を吹き付ける」方法であれば、確かに保護膜を素早く除去することができる。しかしながら、それは同時にプリント配線板上に多量の静電気を蓄積することにもなる。ここで注意しなければならないのは、パターン上の信号を計測できるようにするために、保護膜を剥がそうとしていることである。イオナイザーを用いれば静電気の蓄積を抑制できるが、その種の設備を通常の実験室に設けるのは難しい。
「削る」と「研削する」は、回転機械を使用する強力な手段である。これらの方法の最大の問題は威力が大き過ぎることだ。パターンを削り取ってしまわないようにするには、機械の調整に大変苦労するだろう。
最後に残ったのが筆者がお勧めする「剥ぎ取る」という方法である。ありふれたスクレイパを使用すればよいのだが、筆者は先端部(ブレード)を丸く仕上げたものを好んで使用している。先端部の曲率が適切であれば、必要な部分だけの保護膜を剥ぎ取ってパターンを露出させることができ、そのほかの部分には影響を与えないで済む。保護膜を剥がし終わり、プローブを当てる直前には、綿棒の先端に接着した600番のサンドペーパーで露出した銅パターン面を磨くことにしている。
では、ブレードが丸くなったスクレイパはどこで入手するのだろうか。その答えは「自分で作る」だ。といっても、必要なのは工作用ナイフと砥石だけである。工作用ナイフを砥石で加工してスクレイパとして使用するのだ。筆者は、両面がそれぞれ荒削り面と仕上げ面になっている砥石を使用している。金物屋で「ポケットナイフを研ぐために最適なものはあるか」と尋ねれば入手できるはずだ。あるいは、歯石除去用のスクレイパを利用する方法も考えられる。これも使えることは確かだが、ブレードをパターン幅に合うように加工し、先が鋭くなるよう研ぎ直さなければならない。いずれにしても、仕上げには砥石を使用することになる。
筆者の場合、以下のような手順で工作用ナイフの加工を行っている。まずは幅が4mm程度の直線状の刃先を持つ工作用ナイフを用意する。その刃先先端を砥石の荒削り面に当て、20回程度小さい円を描くようにして研ぐ。次に、ナイフの反対側を同様に研ぐ。このとき、ナイフと砥石面の角度を20〜30゚の範囲で一定に保つようすることが重要である。続いて、砥石の仕上げ面を使用して同じことを繰り返す。ただし、このときはナイフと砥石の角度を5゚ほど大きくする。このようにすることで、先端を鋭く研ぐことができるのである。なお、作業の完了後には砥石をペーパータオルで拭っておくこと。
こうした手順によって、鋭く、直線的なブレードが形成できる。これに曲率を持たせるには、ブレードを前後にひねりながら研ぎ直せばよい。エッジのほうが中央部よりも強く研がれるので、ブレードに曲率が形成できる。
このようにして作った専用のスクレイパを使えば、1パターン分の幅だけきれいに保護膜を剥がすことができる。
Howard Johnson
Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。
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