TSPDのような半導体保護素子の欠点は、電圧に依存して値が変化する寄生容量を持つことである。この欠点により、3つの大きな問題が生じる。1つ目は、チップ側とリング側のバイアス電圧が異なる場合、チップとリングの配線間に容量差が生じて、伝送信号に歪(ひずみ)が生じる可能性があることだ。2つ目は、電話回線のオンフック/オフフック/リンギングといった遷移により、印加電圧が変化し、それに伴って急激に配線の容量が変わることである。3つ目は、容量が変化すると、モデムが回線接続時に通信品質を高めるために行ったイコライゼーションが、最適なものではなくなることだ。もし、容量の変化によって電圧/電流特性が非線形になると、相互変調歪が生じ、データの伝送速度に影響が及ぶことになる。従って、容量の変化による影響を最小化しつつ、適切な規制/規格の要件や推奨事項に準拠する保護回路を設計する必要がある。
容量の変化を避ける方法の1つは、低容量をうたうTSPDを使用することだ。この種のTSPDの容量は通常60pF程度であり、標準的なTSPDより40%も小さい。60pFでさえも大き過ぎる場合には、図3のように逆並列接続した2個の超高速スイッチングダイオードをTSPDと直列に接続することをお勧めする。ダイオードの容量は約10pFであるため、回線の総容量は約15pFとなる。この場合でも、安全性の維持と電源の障害に対する保護のためにヒューズは必須だ。
この方法は、T3やイーサーネットなどの回線規格に対して有効である。しかし、ピーク電圧が高いVDSL2(Very High Speed DSL 2)に対しては、線形性を劣化させるほどの電流がダイオードに流れてしまい、符号化された情報が破壊されてしまう恐れがある。
■VDSL2/ADSL2+での対策
ここで、より容量の変化に過敏なVDSL2/ADSL2+に適用可能な保護回路を紹介する。図4(a)に示したのは、VDSL2/ADSL2+のコモンモードに対して有効な保護回路である。また、図4(b)に示した回路も、VDSL2/ADSL2+のコモンモードのサージに対する保護回路として機能する。同様に、図4(c)の均衡ブリッジ構成も保護回路として有効だ。
そのほか、容量を低く抑えて特性を線形化するために、最小限のラインバイアス電圧を印加する方法も考えられる。図5は、その一般的な構成を示したものである。2個の抵抗(1MΩ)を介して5Vのバイアス電圧を印加すれば、POTSオーバーレイ付きの回路に対応できる。バイアス電圧を24Vにすれば、POTSオーバーレイなしの回路に対応可能だ。
DSLシステムの保護回路を設計する際には、いくつかの考慮すべき要因と、いくつかの有効な手法について検討する必要がある。そのため、保護回路の設計は複雑になる。解決への近道は、さまざまな回路保護技術を有し、1種類の保護素子に偏らない視点を持つサプライヤから助言を得ることかもしれない。
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