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A-Dコンバータが支えるCMOSイメージセンサーの進化(2/2 ページ)

» 2009年05月01日 00時00分 公開
[Randy Torrance(カナダChipworks社),EDN]
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カラム型A-Dコンバータ

 初期のデジタルカメラは、撮影後の待ち時間が非常に長く、素早く連続して写真を撮影することは困難だった。この問題に対処するために開発されたのが、カラム型のアーキテクチャである。カラム型A-Dコンバータを内蔵することで、ピッチ整合列領域において60フレーム/秒の撮影が可能となった。


図4 シングルスロープのA-Dコンバータ 図4 シングルスロープのA-Dコンバータ シングルスロープのA-Dコンバータは、多くのCMOSイメージセンサーに採用されている。

 例えばSamsung社のカメラ付き携帯電話機向けCMOSイメージセンサー「S5K4BAFX」は、200万画素に対応しており、882個のA-Dコンバータを並列に搭載している。この種の製品では、個々のA-Dコンバータに要求される変換速度はそれほど高くない。そのため、A-Dコンバータとしては、シングルスロープのものを採用することが多い。シングルスロープのA-Dコンバータの回路は簡素で、必要なのは比較器とカウンタだけである(図4)。

 S5K4BAFXでは、ランプ電圧(基準信号)とクロックを列の外部で生成できるので、すべてのA-Dコンバータがランプ電圧とクロックを共有する。

 パイプライン型A-Dコンバータを内蔵するアーキテクチャと同様に、カラム型A-Dコンバータを内蔵するアーキテクチャでも、信号を多重化し、アクティブ負荷を適用する。それから、通常の相関2重サンプリングが実行される。

 その後の信号処理は、パイプライン型とは異なる。カラム型A-Dコンバータでは、画素信号が比較器への入力(2入力のうちの1入力)となる。もう一方の比較器入力はランプ電圧である。そして、比較器の出力はカウンタへのイネーブル信号となる。カウンタはマスターカウンタと同期してランプ電圧を生成する。ランプ電圧が画素電圧を超えると、比較器が反転してカウンタが停止する。停止したカウンタは、882個(S5K4BAFXの場合)の列におけるアナログ画素電圧に対応するデジタル値を保持する。

図5 ランプ電圧発生器の構成 図5 ランプ電圧発生器の構成 Samsung社のCMOSイメージセンサー「S5K4BAFX」の例。1024レベルの電圧値を生成可能である。

 カラム型のアーキテクチャでは、A-Dコンバータは、小さくて単純なものでよい。それに対し、ランプ電圧発生器には精度と速度が要求される。ランプ電圧発生器には、カウンタが生成したデジタル値をアナログ電圧へと高精度かつ高速に変換可能なD-Aコンバータが必要になる。S5K4BAFXの場合、10ビットのA-Dコンバータを搭載している。ランプ電圧発生器のD-Aコンバータは、1024レベルの電圧を生成できなければならない。

 これに対応するために、S5K4BAFXでは、図5のようなランプ電圧発生器により、1024レベルの電圧値を生成している。この回路は、サブレンジング型抵抗分割器と16本の抵抗素子で構成される粗粒度の分圧器、16本の抵抗素子で構成される細粒度の分圧器、4本の抵抗素子で構成されるLSB抵抗ストリングで構成されている。

次世代のA-Dコンバータ

図6 電流制御型D-Aコンバータのセル 図6 電流制御型D-Aコンバータのセル Samsung社のCMOSイメージセンサー「S5K4C1GX」の例。抵抗ストリングを用いる従来のランプ電圧発生器を、この電流制御アレイによるランプ電圧発生器で置き換えている。

 Samsung社は、新世代のカラム型A-Dコンバータを最初に開発した企業でもある。そのA-Dコンバータは、2007年に同社が発表したカメラ付き携帯電話機用CMOSイメージセンサー「S5K4C1GX」に搭載された。300万画素に対応し、製造プロセスは90nmである。同製品が内蔵するA-Dコンバータは、比較器と13ビットのカウンタを含むシングルスロープのカラム集積型のものとなっている。13ビットのカウンタによって、12ビットのデータとオーバーフローを表現する。

 従来のカラム型A-Dコンバータと大きく異なっているのは、ランプ電圧発生器である。抵抗ストリングを使う既存のD-Aコンバータに代えて、電流制御型のD-Aコンバータを採用している(図6)。電流制御型D-Aコンバータは複雑で、占有面積が大きい。しかし12ビットの分解能を備えるA-Dコンバータは、高い精度の基準電圧を必要とする。そのため、電流制御型D-Aコンバータを開発して導入することには大きな意味があった。

 S5K4C1GXでは、3個の電流制御アレイの出力を、後段の1個の電流制御アレイにまとめている。各アレイはスタンドアロンの電流制御型D-Aコンバータである。電流制御型D-Aコンバータは、単一電流源のアレイと、制御トランジスタで構成される。フルデコードされた13ビットカウンタが、アレイを駆動する。

 ソニーも、新世代のカラム型A-Dコンバータを内蔵するCMOSイメージセンサーを2007年に発表した。同社はそれまでパイプライン型A-Dコンバータを採用しており、これがカラム型A-Dコンバータを導入した最初の製品となった。現在ソニーが携帯電話機、デジタル一眼レフカメラ、カムコーダのそれぞれに供給している3種類のCMOSイメージセンサーには、カラム型A-Dコンバータが採用されている。このアーキテクチャは、高いフレーム速度を必要とする分野以外でも利用されている。

 ソニーのカムコーダ向けCMOSイメージセンサー「IMX017」では、このアーキテクチャがさらに進化したものとなっている。同製品では、アナログではなく、デジタルの相関2重サンプリング回路を導入した。画素信号から後に差し引くための黒レベル信号を、コンデンサで保持するのではなく、A-Dコンバータの比較器でサンプリングする。そして黒レベル信号電圧とランプ電圧を比較する。比較期間にカウンタがダウンカウントし、ランプ電圧が黒レベル電圧を超えるとカウンタが停止する。画素電圧を比較器に入力すると、カウンタはアップカウントし、黒レベル電圧(ダウンカウントした部分)を差し引いてカウントする。この結果、デジタル相関2重サンプリングでは、サンプリング用コンデンサが不要になるとともに、スイッチングノイズが減少する。

 CMOSイメージセンサーは、急速に普及が進んでいる。市場は寡占化には遠く、同センサーが内蔵するA-Dコンバータに見られるような技術革新が次々に起こった。今後3年から5年程度の間に訪れるであろう変化にも期待したい。

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