北九州産業学術推進機構の「カー・エレクトロニクスセンター(以下、カーエレセンター)」は、産学共同研究などの支援を通じて、カーエレクトロニクスの人材育成に力を入れている。現在は北九州地区の産学連携を中心としているが、2009年からは対象となる大学を九州全域に広げた。さらに、将来は世界中のカーエレクトロニクス技術者が集結する研究拠点となることを目指している。
カーエレセンターは2007年7月に開所した。九州地区は国内の自動車生産台数の1割を占め、ICの生産高では国内の約3割を占める。こうした産業構造を背景に、さらなる地域振興に向けてカーエレの研究拠点が設置された。
同センターのセンター長を務める武藤雅仁氏(写真1)は「半導体と自動車という2つの基幹産業を技術的に結び付けるのがカーエレセンターの役割だ。カーエレクトロニクスの次代を担う人材の育成と、産学連携の共同研究を推進することを目指している」と語る。
カーエレセンターが推進する研究テーマには、「車載半導体チップ」と「車載用組み込みソフトウエア」という2つの大きな柱がある。武藤氏は「2つのテーマそのものも大切だが、これらはあくまでもツールにすぎない。それ以上に重要なのは、こうしたツールを使いこなして新しい機能を実現する車載システムを作り出していくことだ」と強調する。
カーエレセンターが立地する北九州学術研究都市には、理工系大学や研究機関、企業の研究部門などが集まっている。この中で北九州市立大学、九州工業大学、早稲田大学の3つの大学/大学院が連携し、2009年4月27日に北九州学術研究都市連携大学院「カーエレクトロニクスコース」を開講した。
このコースには、履修科目として基幹7科目が新設された。コア技術として取り組む「組み込みシステム開発演習」や「車載向けLSI設計演習」などに加えて、「信頼性システム」や「車載用知的情報処理」、「インテリジェントカー統合システム」などの車載システムに関する講座を設けている。カーエレの領域で広い視野と見識を備え、次代を担うリーダーとしての実践力を有する人材を育成するための科目である。
大学と企業が共同研究を行うために、企業からは共同研究のテーマ(ニーズ)候補を挙げてもらい、大学側には固有技術(シーズ)を列挙してもらう。このリストに基づいて、カーエレセンター側で共同研究のマッチングを実施する方針をとっている。
ところが、北九州学術研究都市にある大学のシーズだけでは、企業から寄せられたニーズと必ずしも合致せず、共同研究まで至らないケースも多い。この問題を解消するために、2009年からは共同研究の対象となる大学を九州全域に広げていくことにした。
研究テーマは大きく3つある。電気自動車/ハイブリッド車のコア技術となる「パワーエレクトロニクス技術」、熟練度の低い運転者でも交通事故を起こさないような「自動運転に必要な要素技術」、および「組み込みソフトウエア技術」である。
特に、自動運転の要素技術の1つである判断支援に関して、九州工業大学大学院では、脳情報に基づく判断アルゴリズムの研究を進めている。「脳情報に関する国内の研究拠点は九州工業大学大学院だけだ」(武藤氏)という。今後は、判断支援と認知支援の技術を組み合わせた自動車の衝突回避アルゴリズムなどが北九州地区から世界に発信され、商用車に搭載される可能性もある。
(馬本 隆綱)
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