ICの集積度が増し、実現したい機能の複雑さが進んだ結果、HDLコードとして実現されたモジュラ型の機能ブロックを利用する方法が考案された。その狙いは、この機能ブロックをほかの製品にも流用して再利用性を高めることである。この機能ブロックは、一般的にはIP(Intellectual Property)コアと呼ばれる。この考え方に基づけば、自社で以前に設計した回路コンポーネントを再利用したり、あるいは社外から購入して利用したりすることができる。IPコアの形で実現されているものとしては、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)、イーサーネットのインターフェース、コーデック、マイクロコントローラなどさまざまなものがある。
FPGAにおいても、このIPコアを利用することができる。その入手先としては、FPGAベンダーやそれ以外のサードパーティベンダーが挙げられる。その場合、通常は有償で入手することになるが、ドキュメントや検証ツール、サポートなども併せて提供される。あるいは、Opencores.orgなどから、オープンソースのHDLコードとして無償で提供されているものを使用することも可能である。
FPGAについては、設計上のセキュリティ確保の問題を最大の懸念材料と感じる人もいるだろう。特に構成データを外部に保存し、起動時にFPGAにそのデータを転送するSRAM方式では、知的財産情報の機密性に不安を覚えるかもしれない。この問題に対処するために、FPGAベンダーは、不揮発性のプログラミング技法と、偽造品を識別するためのシリアル番号を埋め込む方法を併用している。
Altera社の場合、設計の安全性を確保しつつ、デバイスのリカリングコストを低減するための別の手法を提供している。同社の「HardCopy ASIC」は、「Stratix」シリーズと同等のリソースを備えており、Stratixを用いる場合と同等の機能を実現可能である。その一方で、チップサイズが小さく、消費電力を抑えられるというメリットを享受できる。最終的なHardCopy ASICは、FPGAによるプロトタイプとの端子互換性を持つ。そのため、プロトタイプから最終製品に切り替える際、システムボードやソフトウエアに変更を加える必要がない。量産時にHardCopy ASICを使用すると、ブートデバイスも不要になるため、全体的なコストをさらに削減することができる。
FPGAベンダーは、いずれも自社製品での動作を検証済みのIPと、プログラミングツールを統合したツールセットを提供している。例えば、Xilinx社の開発キットである「Virtex-5 FX70T」は、開発ボード「ML507」、組み込みツールスイート「Platform Studio」、ISE(Integrated Software Environment:統合ソフトウエア環境)を提供し、ハードプロセッサの「PowerPC 440」とソフトプロセッサの「MicroBlaze」をサポートする(写真1)。同キットには、統合開発環境、複数のソフトウエアツール、構成ウィザード、組み込み設計をターゲットとするIPが含まれる。ユーザーは回路図エディタで回路を入力し、その回路のタイミングをシミュレーションし、Virtex-5向けにコンパイルして、ML507上でテストを行うことができる。Virtex-5 FX70Tはオンラインで購入することができ、価格は2595米ドルとなっている。
FPGAの開発ツールは、サードパーティベンダーや組み込みボードメーカーから入手することもできる。例えば、米National Instruments社は、組み込みアプリケーションに適したFPGAベースのシングルボードモジュール「NIシングルボードRIO(以下、RIO)」を評価キットとともに発表している。同社のグラフィカル設計ツール「LabVIEW」を用いたプログラミング手法を採用した製品であり、組み込み向けリアルタイムプロセッサや、FPGA、アナログI/O、デジタルI/Oなどが8.2インチ×5.6インチ(約20.8cm×14.2cm)のプリント配線板上に実装されている。具体的には、米Freescale Semiconductor社の266MHz/400MHzのプロセッサ「MPC5200」とXilinx社のFPGA「Spartan-3」、米Wind River Systems社のリアルタイムOS「VxWorks」などを搭載している。アナログI/OおよびデジタルI/Oは直接FPGAに接続されており、タイミング調整やI/O信号処理のカスタマイズが行えるようになっている。価格は1000米ドル(100個以上購入時)から。
またNational Instruments社は、RIOのサポートを目的として、組み込みアプリケーション向けのソフトウエアモジュール「LabVIEW Real-Time」とツールキット「LabView FPGA」も発表している。同キットには、さまざまな評価用ソフトウエア、RIO用の評価デバイス、I/Oインターフェース用のドーターボード、電源、ケーブル、チュートリアル、LabVIEWで実装されたサンプルアプリケーションなどが含まれている(写真2)。同キットには、LabVIEWにおいてグラフィカルにブロック図を作成/微調整することにより、FPGAアプリケーションを作成/コンパイル/実行するための演習サンプルもいくつか含まれている。90日間試用版の価格は999米ドルである。
多くの市販ボードメーカーが、複雑な設計要件を満たしつつ将来の変更を可能とするために、FPGA技術を利用し始めている。例えば米Quantum3D社は、主要な航空計器やMLS(Multilevel Security)システムなど、安全性やセキュリティが非常に重要なアプリケーションにおいて、「Sentiris AV1 PCI XMC(Express Mezzanine Card)」によって、システム(ハードウエア)が陳腐化することを防げるようにしている(写真3)。従来の専用GPU(Graphics Processing Unit)の代わりに、FPGAベースの映像/画像処理コアを採用することでこれを実現している。
Sentiris AV1 PCI XMCは、もともとは航空用途向けの画像生成アプリケーションなどのために設計されたものだが、医療機器におけるリアルタイム画像処理など、ほかの用途にも適用可能である。同製品の映像/画像処理能力と、アナログビデオ出力/HD-SDI(High Definition Serial Digital Interface)ビデオ出力により、コックピットをはじめとするミッションクリティカルな応用分野に対して3D画像アプリケーションを提供することができる。512MバイトのECC(Error Check and Correct)機能付きDDR2メモリーや、2つのHD-SDI出力、8レーンのPCI Expressインターフェースなどを搭載している。価格は9980米ドルからとなっている。
FPGA技術はその優れた並列処理能力から、ソフトウエア無線、データアクイジション(収集)システム、デジタル信号処理など、マルチチャンネルの高性能アプリケーションに適している。例えば、米Pentek社は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信における監視処理やシグナルインテリジェンス処理向けの高解像度ソフトウエア無線モジュール「Model 7151」を発表している。
同モジュールでは、200MHz/16ビットのA-Dコンバータ4つが、計256チャンネルのDDC(デジタルダウンコンバージョン)機能を提供するIPコア(同社の特許技術)に接続されている(図1)。このIPコアはFPGAで実装されており、64個のDDCチャンネルの各バンクにそれぞれ異なる出力信号帯域幅を設定することができるようになっている。そのため、複数種の信号や変調方式を必要とするアプリケーションへの対応が行える。また、通常は特定のアンテナに割り当てられている4個のA-Dコンバータのうちいずれかへ、各バンクをそれぞれ独立に接続できる。変調方式、信号帯域幅、接続アンテナが多種多様な数百もの信号を同時にキャプチャすることが可能になっている。
Pentek社は、ボードサポートパッケージ「ReadyFlow」によって、ハードウエア初期化機能、制御機能、アプリケーション機能のライブラリを提供している。対応するOSは、Linux、VxWorks、「Windows」である。Model 7151のPMC(PCI Mezzanine Card)モジュール版の価格は、1万4500米ドル。
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