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Wi-Fiの“モバイル性能”評価FMC普及の鍵を握る(1/2 ページ)

Wi-Fi機器や携帯電話機による通信が普及するに連れ、音声/データに常時アクセスできる環境を求める声が高まっている。このような環境を実現するために数年前に登場したのが、Wi-Fiと携帯電話を融合したFMCだ。しかし、FMCには課題も多く、世界的な規模での普及には至っていない。本稿では、そうした課題の1つであるテスト手法について取り上げ、主にWi-Fiの“モバイル性能”を統合的に評価する方法を紹介する。

» 2009年07月01日 00時00分 公開
[Gragam Celine(Azimuth Systems社)/Sandy Fraser(Agilent Technologies社),EDN]

FMCの普及に必要な条件

 FMC(Fixed/Mobile Convergence:固定/モバイル融合)は、モバイルワイヤレスネットワークを介して、携帯機器やエンドポイント機器に音声や映像、データなどのサービスやアプリケーションを、一定の品質でシームレスに提供することができるものとして期待されている。実際、この概念は、大きな商業的成功の可能性を秘めている。例えば、インフラベンダーは、バックエンドを統合した製品やサービスを提供することができ、サービスプロバイダは、携帯電話ネットワークのインフラを整備したり、Wi-Fi方式を採用したりすることにより、新たな収入源を確保することができる。

 このような市場機会があるにもかかわらず、業界は、まだエンドユーザーによるFMCの導入を促進するようなアプリケーションやサービスを提供できていない。市場に広く受け入れられるには、インフラベンダーやサービスプロバイダが、FMCによってもたらされる大きなメリットの提供に向けて、全面的に体制を整えていくことが不可欠だ。そのメリットとは、モバイルネットワークと企業内/家庭内ネットワークの両方に対し、1台の機器と1つの電話番号のみで対応できるということである。

 携帯電話ネットワークから企業内/家庭内ネットワークへとシームレスに転送される音声通話機能を利用することで、ユーザーは継続的な通信が可能となり、Wi-Fiネットワークの広いカバレッジが利用できるようになる。それにより、携帯電話ネットワークを介した通話を減らす、言い換えれば携帯電話機での通話時間を低減することが可能になる。逆に、企業内/家庭内ネットワークから携帯電話ネットワークへと音声通話を移すと、オフィスや家を離れても継続的に通信が行える。データアプリケーションがいつでもどこででも利用可能となれば、個人およびビジネス上の生産性も著しく向上する。携帯電話機またはWi-Fiネットワークの通信圏内では、ユーザーは同じ場所にとどまっていても移動していても、電子メールやウェブブラウジング、オンラインサービスといったインターネットベースのアプリケーションを使用することが可能になる。このような利便性から、FMCサービスの潜在ユーザーはかなりの数に上ると推定される。

 シームレスな音声/データ通信以外にも、Wi-Fi機器または携帯電話機どちらか一方のみのサービスでは得ることのできないコスト節減効果や、優れたユーザーエクスペリエンスによっても、FMCサービスに対する消費者の継続的な需要が促進される。携帯電話機のサービスの向上により、使い勝手に対するユーザーの期待は高まっており、その分、評価も厳しくなるだろう。従って、新しい融合サービスは携帯電話機のサービスと同等またはそれ以上の品質を実現しなければならない。エンドユーザーが満足できる性能を実現できないとしたら、消費者はWi-Fiと携帯電話の融合サービス、すなわち、FMCに利用価値を見い出さなくなり、業界はFMCのサービスに対する継続的な需要を維持することができなくなる。

 実際にFMC技術が普及するためには、ワイヤレスIP(Internet Protocol)ネットワークやIEEE 802.11a/b/g/nの各種規格に対応した機器が、携帯電話機と同等レベルの基本的なサービスを提供できるようになることが必須となる。FMCは、Wi-Fiネットワーク内やWi-Fi/携帯電話ネットワーク間で移動するユーザーに対して、十分なユーザーエクスペリエンスを提供する必要がある。例えば、以下のような事項が挙げられる。

  • 高音質である
  • 通話が途切れることがほとんどない
  • データサービスにおける信頼性とスループットが高い
  • スタンバイ状態やアクティブ状態における携帯機器の電池寿命が長い
  • 音声とデータのローミングやハンドオフがシームレスである

 これらの指標は、(通信)範囲、ローミング、ハンドイン/ハンドアウト能力といったWi-Fiの“モバイル性能”と直接的な関連を持つ。

 品質、カバレッジ、コストの面から、モバイル性能のテストを効果的に実施するには、効率的で、コスト効果や拡張性が高く、繰り返し性に優れ、なおかつ実環境をできるだけ正確に再現できるようなテスト手法を使用しなければならない。技術者が融合機器やネットワークの性能を、Wi-Fi機器と携帯電話機の両方から評価することのできる統合されたテスト手法が必要となるのである。

FMCの性能を決めるもの

 長距離携帯電話ネットワークサービスに対する消費者の需要が高まった主な要因の1つは、モバイル音声サービスやテキストメッセージング、電子メール、ウェブアクセスといったデータサービスが進歩したことである。FMCでは、携帯電話機におけるカバレッジの信頼性がやや低下する屋内でも、Wi-Fi技術を利用することにより、上記のような機能の性能をさらに向上することができる。Wi-Fiネットワークのカバレッジを利用すると、ユーザーはより高速にサービスにアクセスすることが可能になる。その分、Wi-Fi接続においてもモバイル性とサービスの品質を維持することが重要となってくる。

 また、Wi-Fiと携帯電話の融合サービスでは、ネットワーク間の転送が行われている際にも、同等またはそれ以上の品質の音声/データサービスをサポートしなければならない。モバイルサービスには、Wi-Fi範囲、Wi-Fiローミング、ハンドイン/ハンドアウトのネットワーク転送における十分な性能が必要なのである。

■Wi-Fi範囲

 Wi-Fi範囲とは、ユーザーがWi-Fiのアクセスポイントに近づいたり、アクセスポイントから遠ざかったりする際に、音声/データサービスに対してユーザーが認識する品質のことである。これが、Wi-Fiの性能を表す重要な指標となる。

 携帯電話機とは異なり、Wi-Fiではパケットエラーを抑えるために伝送データ速度を変化させる。アクセスポイントやクライアント側のWi-Fi送信機で、動的に通信速度を最適化(Dynamic Rate Adaptation)するアルゴリズムを用い、パケットごとに伝送データ速度を制御するのである。このアルゴリズムは、受信信号の強度やパケットエラー率といったネットワーク/環境上のさまざまな可変要素を考慮して、伝送速度の増減を決定する。このアルゴリズムをうまく実装していないと、ユーザーはWi-Fiのアクセスポイント周辺を移動する際に、データスループットや音声品質が著しく低下したと認識してしまう。アルゴリズムが適切に実装されていることを確認するには、クライアントおよびアクセスポイント機器に対して、通信距離のテストを徹底的に行わなければならない。

■Wi-Fiローミング

 Wi-Fiローミングとは、ユーザーがWi-Fiのアクセスポイント間で移動する際に高品質な音声/データサービスを提供する能力のことである。こちらも、Wi-Fi範囲と並んでWi-Fi機器の性能を表すもう1つの重要な指標となっている。携帯電話ネットワークにもWi-Fiネットワークにも、接続条件に応じて、携帯電話基地局やWi-Fiアクセスポイントなどのインフラ機器間で接続を切り替えるためのアルゴリズムが用いられている。

 携帯電話ネットワークでは、基地局においてローミングアルゴリズムを使用する。基地局はネットワークによって管理され、基地局の負荷変動やサービス品質の低下など、リアルタイムのネットワーク条件に基づいてローミングを決定する。一方、Wi-Fiネットワークでは、クライアントにおいてローミングアルゴリズムを使用するため、リアルタイムのネットワーク条件を考慮することなくローミングが決定される。つまり、Wi-Fiのクライアントは、負荷の高いアクセスポイントや適切に機能していないアクセスポイントへローミングする可能性があり、その場合はデータスループットや音声品質が著しく低下するか、セッションが切断してしまうことになる。

 ローミングアルゴリズムの実装方法の違いに加えて、携帯電話ネットワークとWi-Fiネットワークとではローミングを実行する手段も異なる。通話している際の携帯電話ネットワークでは、メイクビフォーブレイク(Make-Before-Break)方式でローミングを実行する。これは、セッション制御を解放する携帯機器と基地局との間の接続を切断する前に、次のセッション制御を獲得する携帯機器と基地局との間の接続を確立する方式である。携帯電話ネットワーク上のデータサービスにおいて、メイクビフォーブレイク方式とブレイクビフォーメイク(Break-Before-Make)方式のどちらを使用するかは、ネットワークの設定によって決まる。

 一方、Wi-Fiネットワークでは、常にブレイクビフォーメイク方式によってローミングを実行する。つまり、クライアントは、アクセスポイントとの接続を切断してから新しいアクセスポイントとの接続を確立する。このため、クライアント側でローミングアルゴリズムがうまく実装されていないと、新しいアクセスポイントとの接続を確立する前に大きな遅延が生じるか、あるいは接続に失敗するといった状況が生じ得る。このような状況は、データスループットや音声品質、通話の継続性に深刻な影響を与えることになる。

■ハンドイン/ハンドアウト転送

 ハンドイン/ハンドアウト転送とは、Wi-Fiネットワークと携帯電話ネットワークとの間でセッション接続を切り替えることである。これは、Wi-FiからWi-Fiへのローミングや携帯電話機間のハンドオーバーよりも複雑なものとなる。音声通話の場合、このWi-Fiから携帯電話への切り替えは必ずメイクビフォーブレイク方式で行われ、通常は単純なWi-FiからWi-Fiへの切り替えよりもさらに複雑である。携帯電話とWi-Fiでは、ハンドオーバーとローミングアルゴリズムの実装方法に違いがあるため、Wi-Fiから携帯電話への効率的なハンドオーバーを実現するには、バックエンドの携帯電話ネットワークに複雑な変更を加えるとともに、意思決定アルゴリズムを大きく変更する必要が生じる。このように複雑さが増すことから、ハンドオーバーがデータスループットや音声品質、通話の継続性に及ぼす影響を検証するための徹底的なテストが重要となるのである。

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