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電源ケーブルの「緑色の線」Signal Integrity

» 2009年07月01日 00時00分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 電灯のスイッチを入れたところ、その直後に一瞬だけ明るく光り、すぐにほかの部屋も含めて全室の電灯が消えて暗闇になる。このような状況を経験したことのある方も多いだろう。言うまでもなく、電源のブレーカが落ちた瞬間である。

 電球がこのような壊れ方をするのは、電球のフィラメントが断線寸前の状態にあったからだ。その状態の電球に電源を入れると、フィラメントが瞬間的に加熱され、その熱ストレスによって破断して細切れ状態になり、電球の内部に破片が飛び散る。その破片が電球の電源端子間に付着すると、電源端子間が短絡する。このとき、電球には規定値よりもはるかに大きな電流が流れる。その電流によって電球は一瞬まぶしいほどに光るのだが、すぐにブレーカが落ちて電源が切れるという流れである。

図1電源ラインの短絡時の状況 図1 電源ラインの短絡時の状況 

 図1を基に、ブレーカが落ちる直前の状態について考えてみよう。ブレーカから電球までは、電球につながる電圧線、短絡状態にある電球、電流帰路となる中性線の3つの部分に分けることができる。図の点AとBとの間の電圧、つまり中性線の両端での電圧降下は最悪の場合60Vrmsにも達する。このような条件になると、電源ケーブルが過熱して燃え出し、建物に燃え移ることもある。ブレーカは、このような事故を防止するためのものだ。

 ブレーカと併用される対策として、多くの国では、接地極を備える3線式コンセント/配線を使用するよう定めている。この配線方式では、電流は電圧線と中性線とだけを流れる。第3の線、つまり緑色の保安線は、電気機器の金属筐体をAC電源の入力個所で接地(アース)する。機器が正常に動作していれば、緑色の保安線(以下、アース線)には電流は流れない。アース線は、異なるAC電源を使用する複数の機器に、確実な基準電位を与えるためのグラウンド線だと理解されることがあるが、実際のアース線はそのように働くものではない。

図23線式配電の仕組み 図2 3線式配電の仕組み 3線式配電の場合、緑色のアース線の働きによって、電圧線に短絡した筐体が高電圧になることを防止することができる。しかし、隣接するアース線CとDの間に電位差が生じることは避けられない。

 図2において、右側の四角い箱は、筐体が金属製の古い自動販売機であるとする。ここで、この機械の内部で引き回された電圧線が切断され、宙ぶらりんの状態になったとしよう。このとき、電圧線の切れ端が金属筐体に触れると危険な状態に陥る。金属製の筐体には高い異常電圧がかかることになるが、アース線があればそれを通って直ちに大きな電流が電源に戻る。アース線の役割は、これだけだ。このような異常電流が流れれば、ブレーカが落ちて電源が遮断され、次に自動販売機を利用しようとする人の命が救われることになるのである。

 異常電流は、アース線をサージ的に流れる。図のCとDのように、複数の機器のアース線が隣接して存在すると、サージ的に異常電流が流れた際、アース端子間には60Vrmsにも達する電位差を生じる可能性がある。自動販売機の事故が原因であったとしても、その事故によるサージ電流で別の機器が故障したならば、故障の責任はその機器の使用者が負わなければならない。従って、このようなごくまれにしか起こらないような条件に対しても、故障が起きないよう機器を設計しておくことが望ましい。

 データ伝送用の機器の各筐体間で、60Vrms以上の電位差が生じても許容できる伝送方式もある。例えば、イーサーネットのように平衡のとれた差動方式とトランス絶縁方式を採用しているものや、光ファイバを利用したオプティカルリンク、赤外線通信、RFトランシーバなどが有効である。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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