A-Dコンバータの動作特性の解析には、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)がよく用いられる。A-Dコンバータから一定のサンプリング周期で出力されるデータに対してFFT処理を施すことで、周波数特性を解析するのである。多くの場合、A-Dコンバータのメーカーも、製品のデータシートに記載する動作特性図をFFT解析によって得ている。
FFT解析を行う場合、通常は、A-Dコンバータの入力として、単一周波数でフルスケール振幅のアナログ信号(正弦波信号)を使用する。この入力信号に対応する出力データに対してFFT演算を行うと、図1に示すようなプロットが得られる。通常、このプロットのX軸は、DCからA-Dコンバータのサンプリング周波数の1/2までの周波数を線形表示で示す。一方、Y軸は信号振幅を対数表示で表す。
図1のプロットを取得する際に用いたのは、サンプリングレートが100キロサンプル/秒で分解能が12ビットのA-Dコンバータである。周波数が9.9kHzの正弦波信号を入力とし、A-D変換の結果得られた出力データをFFTしてプロットを得ている。
このようにして取得したプロットでは、基本波成分、S/N比(信号対雑音比)、THD(全高調波歪)、平均ノイズフロアなどの特性に注目する。まず、図1のプロットにおいて、周波数9.9kHzのポイントにあるピークのスペクトルが、入力信号の基本波成分を表す(図1の(1))。この基本波成分のピーク値は、0dB近辺にまで達する。
S/N比は、信号電力とノイズ電力の比であり、A-Dコンバータのノイズレベルを評価する際の有効な指標である。S/N比は、いくつかのノイズ要因によって決まる。1つは、A-D変換に伴って理論的に生じる量子化ノイズである。S/N比の理論限界値は、分解能のビット数nを用いて6.02n+1.76〔dB〕と表せる。この式で表現されるのは、量子化ノイズに対するS/N比のみであり、それ以外のノイズは含まれない。現実のA-Dコンバータでは、内部回路で発生するノイズ、基準電源の変動によって生じるノイズ、A-Dコンバータの駆動用アンプ回路で発生するノイズなどが生じる。
THDは、A-Dコンバータによる変換時に発生する波形の歪(ひずみ)の量がどの程度であるのかを示す指標である。具体的には、入力信号の電力に対する各高調波成分の電力の和の割合として与えられる。A-Dコンバータに非線形な部分があると、基本周波数の整数倍の周波数に高調波成分が生じる(図1の(2))。THDの計算には、多くのメーカーが、2次から数えて5個目、あるいは7個目、9個目までの高調波成分を使用している。
FFTのプロットにおける平均ノイズフロア(図1の(3))は、基本波成分と高調波成分の含まれるFFTビン(FFT演算処理における単位周波数区間)を除く各FFTビンのレベルの2乗和平方根として与えられる。評価したい信号成分がノイズフロアに隠れないようにするには、A-Dコンバータのビット数を考慮して、FFTの演算に用いるサンプル数(出力データの数)を適切に選択することが必要になる。ノイズフロアの理論値NF〔dB〕は、以下の式で表される。
NF=6.02n+1.76+10log[(3×M)/(π×ENBW)]
ここで、MはFFTに用いるサンプル数、ENBWは窓関数の等価雑音帯域幅、nはA-Dコンバータのビット数である。この式を基にして考えると、12ビットのA-Dコンバータの出力をFFTで解析する場合、サンプル数としては4096程度が適切な値となる。
Bonnie Baker
Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com
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