先ほど、結晶系シリコン太陽電池の理論限界値は29%としたが、実際にはシリコンの持っている能力を全部引き出したとしても、その値には達しない理由(課題要素)がいくつかある。以下、その技術要素を列挙する。
材料に不純物があるとその分ロスが起きるため、できるだけ上質な材料を使いたい。ただし値段が高い
太陽光を全部シリコンが吸収できれば1番良いが、どうしても表面で反射してしまう。そのため反射を防ぎかつ多くの光を吸収するような「反射防止膜」の開発を進めている
発電した際に電極がなければ電気を取り出せないため(乾電池にプラスの凸がついていたり底面にマイナスの電極があるのと同じように)、太陽電池にも電極が必要となる。ただし電極の部分は、光が当たらない(光がシリコンまでいかない)とその分ロスになるので、電極をできるだけ細くしたいが、すると今度は流れる電流に対しての抵抗値が増え、さらにロスが大きくなってしまう。このバランスが難しく、課題の1つとなっている(米国サンパワーなどは電極を裏面に持ってくるバックコンタクトという技術を用いている)
せっかく分離したマイナスとプラスの電子が、電極まで距離があるために途中で再結合しまい、変換効率のロスにつながる
薄膜については、多層化というのが1つのキーワードとなっている。以前は一層(単層)アモルファスで変換効率5〜6%ほどだったが、現在ではタンデムという二層構造(アモルファスシリコンに微結晶薄膜シリコンを積層)のものが主流になってきている。さらに研究レベルでは三層のものも開発されている。
どうして二層構造にすると変換効率が上がるの? 微結晶が良いなら、全部微結晶で作ればいいじゃん!
アモルファスと微結晶を顕微鏡で覗くと、アモルファスは粗い構造になっているのに対し、微結晶はとても細かい構造になっているんだ。つまり電子の流れるスピードが異なる(発電速度が速い)。また、太陽電池には分光感度という指標があって、太陽光の波長に沿えば沿うほど変換効率も上がるんだけど、アモルファスと微結晶を組み合わせることで、どちらか一方では補えなかった波長も吸収するんだ。
具体的にいうと、アモルファスは波長が350〜700nmの範囲でうまく発電(反応)する。700nm以上の波長(赤い光から外側)では発電できない。対して、微結晶は950nmくらいまで能力持っている。よってアモルファスと微結晶を直列に重ねると、両者の特性を足したものができる。
じゃあ三層構造というのは、さらに分光感度を上げたものになるんだね。
そういうこと。ちなみにシャープなどは、二層のアモルファスシリコンと一層の微結晶シリコンを用いた三層(トリプル)の薄膜太陽電池を開発している。
また、薄膜系のもう1つ大きな技術的なポイントとしては、プラズマCVD装置の改良が挙げられる。同じ材料を用いて装置の中でいろいろと工夫をすることで、効率向上を図る。
これまで色素増感太陽電池については解説してこなかったけど、モバイル機器やアクセサリーなど、意匠性の高い製品用途では、色が表現できる太陽電池があればデザインの幅が広がりそうだよね。
あー! そんな感じの、この前CEATECで見たよ。絵が描けたり、ネットブックの天板に付いているものがあった。
そうだね、変換効率はほかの太陽電池に比べるとやや落ちるけど、その分汎用性の高さやシースルー性を生かした展開が期待できる。もちろん住宅向けとしても今後、普及していく可能性だってある。
色素増感太陽電池は、シリコン系太陽電池とはまったく異なる構造、仕組みで発電する。シリコンは分離した電子を電極に集めることで発電するが、色素増感はガラスやフィルム基板上に色素を塗り、そこ(色素)に光が当たるとチタニア(TiO2)という物質を通して電子が移動することで、発電する。
メリットは比較的簡単に製造できること。高温あるいは真空装置が必要なく、印刷技術などの応用で作成できる。大学の研究室などでも作られている。ただし、電解液に蒸発しやすい液体(有機溶媒)を使用することから、耐久性がやや弱い。そのため、電解液の固体化など、発電効率とともに耐久性を向上させる技術開発が進められている。
色素増感太陽電池は印刷装置さえあれば、スクリーン印刷をするような感覚で作成できるんだ。
カラフルな太陽電池が出てきたら、今後はケータイだけじゃなくて、さまざまな製品に太陽電池が搭載されそうだね。
そうだね。蓄電池と組み合わせたトータルなエネルギーシステムとしての展開も期待できる。
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