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計装アンプのCMRRBaker's Best

» 2010年03月01日 00時00分 公開
[Bonnie Baker,EDN]

 3個のオペアンプで構成される計装アンプは、一見すると非常に単純なものであり、その特性についても理解が容易であるように感じられる(図1)。まず、差動入力信号の部分には、オペアンプを用いた単純な構成の増幅回路が使用されている。そして、オペアンプの入力オフセット電圧誤差は、シンプルな概念の特性である。開ループゲインの定義も昔から変わっていない。オペアンプが登場した初期のころから、CMRR(Common Mode Rejection Ratio:同相信号除去比)についても簡潔な概念が使用されてきた。では、計装アンプについて、悩ましいことなど特にないのだろうか。


図1オペアンプ3個で構成される計装アンプ 図1オペアンプ3個で構成される計装アンプ VCMはコモンモード電圧、VDIFFは差動入力信号、VOUTは出力信号。

 計装アンプのCMRRは、一般的に次の式(1)で表される。

 ここで、Gは計装アンプ全体のゲイン、ΔVCMはグラウンドを基準として両入力端子に印加されるコモンモード電圧VCMの変化分、ΔVOUTはΔVCMに対応する出力電圧VOUTの変化分である。

 一方、計装アンプのCMRRに影響する1つの要因は抵抗の誤差である。以下、図1を例にとって説明すると、オペアンプA3の周辺に使用する抵抗の誤差比率がCMRRに大きな影響を及ぼす。例えば、R1=R3、R2=R4が完全に成立していれば、3つのオペアンプで構成される計装アンプのCMRRは、理想値、すなわち無限大になる。しかし、現実の計装アンプのCMRRは、R1〜R4の値、特にR1とR2の比率とR3とR4の比率のマッチング度合いから大きな影響を受ける。

 これら4個の抵抗とオペアンプA3により、オペアンプA1と同A2からの出力の差分が増幅される。つまり、抵抗の比率にミスマッチがあると、A3の出力に誤差が生じるということである。抵抗比率のミスマッチERR〔%〕とCMRRの関係は次の式(2)で表される。

 例えば、R1〜R4がほぼ同じ値であり、R4とR3の比率(R3/R4)がR2とR1の比率(R1/R2)に対して1.001のミスマッチを持つとしよう。この0.1%のミスマッチによって、計装アンプのCMRRは理想値である無限大から66dBにまで低下する。計装アンプ全体のゲインが1である場合、式(2)のCMRRA3が計装アンプ全体のCMRRとなる。

 式(1)からわかるように、計装アンプ全体のゲインを高くすると、CMRRが向上する。このことから、計装アンプの設計時にゲインを十分高くすればよいのではないかと考えるかもしれない。しかし、この方策は、オペアンプA1と同A2の開ループゲイン誤差によって制限を受ける。A1とA2のゲインが高くなると、それらの開ループゲイン誤差によってオフセット誤差が増大する。その結果、A1とA2からの出力が電源レールに達することにもなり得る。つまり、計装アンプのCMRRはオペアンプのゲインが高くなるとともに低下し、ゲインがある程度以上高くなると、一定の値で飽和するということである。

<筆者紹介>

Bonnie Baker

Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com



脚注

※1…Baker, Bonnie, "CMRR not created equal for all INAs," Electronics World, December 2008

※2…Kitchin, Charles, and Lew Counts, "The right way to use instrumentation amplifiers," EDN, Sept 15, 2005, p.69

※3…Amplifiers and Linear, Texas Instruments, http://www.ti.com/amplifiersandlinear-ca


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