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ロームとOKIセミの技術で車載対応、モーター/LED向けのドライバICを強化高野 利紀氏 ローム LSI開発統括本部長

2008年に創業50周年を迎えたローム。大手電子部品メーカーとして知られる同社は、創業50周年を契機に、従来以上に半導体事業に注力する姿勢を打ち出した。そして、この半導体事業において、最も力を入れて製品開発を進めている用途の1つが車載分野である。車載半導体の技術戦略の方向性について、同社LSI開発統括本部長を務める高野利紀氏に語ってもらった。(聞き手/本文構成:朴 尚洙)

» 2010年04月01日 00時00分 公開
[Automotive Electronics]

OKIセミの買収

 ロームにおける車載半導体の歴史は、1980年代前半に発売したメーター向けICから始まる。それまで、当社の製品が車載用途で用いられることもあったかもしれないが、車載専用品としてICを開発したのはこれが初めてだった。その後、1990年に車載AV機器向けICを、2003年に車載制御系向けICを市場投入した。2006年には、東海地区の自動車メーカーやティア1サプライヤからの要望に素早く対応できるように、名古屋デザインセンターを設立した。

 また、2008年10月には、沖電気工業の半導体事業部門であるOKIセミコンダクタ(以下、OKIセミ)を買収した。これによって、OKIセミの製品がラインアップに加わるだけでなく、両社の技術を組み合わせることで、新たな分野に事業領域を広げることが可能になった。もちろん、車載半導体についても、そうした相乗効果が期待できる。

 現在、ロームの車載半導体事業の主力製品となっているのが、電源ICやドライバICなどのアナログICと、EEPROMだ。一方、OKIセミは、カーナビゲーションシステムや、ETC(Electronic Toll Collection System)/ITS(高度道路交通システム)製品で利用する画像/音声処理IC、通信系IC、マイコンなどの採用実績がある。両社の製品は、補完関係にあると言えるだろう。

先進安全システムを実現

タカノトシキ 1984年、ロームに入社。CMOSロジックICなどの開発を担当する。その後、EDAシステムなどLSI開発の効率を改善する環境構築の業務に携わり、2002年にIP開発部長に就任。LSIデザインクオリティ開発部長を兼任したのち、2007年にLSI開発システム本部副本部長に就任。2008年にLSI開発本部長、2009年にLSI開発統括本部長に就任。 タカノトシキ 1984年、ロームに入社。CMOSロジックICなどの開発を担当する。その後、EDAシステムなどLSI開発の効率を改善する環境構築の業務に携わり、2002年にIP開発部長に就任。LSIデザインクオリティ開発部長を兼任したのち、2007年にLSI開発システム本部副本部長に就任。2008年にLSI開発本部長、2009年にLSI開発統括本部長に就任。 

 新規開発を行う上でも、両社の持つ製品/技術を組み合わせることで、より高い付加価値を創出できるような取り組みを進めている。その一例となるのが、カメラを使った予防安全システム向けの提案活動だ。

 まず、カメラのイメージセンサーとして、ロームで開発を進めているCIGS(CuInGaSe2)系イメージセンサーを提案している。このイメージセンサーは、IC上に積層した化合物半導体であるCIGSの薄膜を用いている。これによって、CMOSセンサーよりもはるかに高感度かつ広帯域の撮像が行える。つまり、ほとんど光のない環境での撮像や、赤外線画像の撮像が可能になる。

 次に、CIGS系イメージセンサーで撮影した画像データに対し、OKIセミが開発中の画像認識IC「NEX@EYE」を用いて画像認識を行う。通常の画像認識ICでは、画像データ全体をスキャンして歩行者や道路上の白線などのテンプレートに合致するものを検出するパターンマッチング技術により、画像認識を実現している。これに対して、NEX@EYEでは、歩行者や白線など、画像データの中で動いているものだけを抽出する独自の認識エンジンを用いている。そのため、画像認識を高速で行えるし、ICの消費電力も低く抑えられる。

 さらに、ロームの画像処理IC「AIE(Adaptive Image Enhancer)シリーズ」を用いれば、撮影した画像データを、より高い視認性を持った画像データに変換することが可能だ。AIEシリーズは、夜間などで全体が暗い画像、逆光により明暗差が大き過ぎる画像、全体に霧がかかっている画像に対し、見えにくい部分だけを見えやすいようにリアルタイムで補正を施す機能を備えている。

 これら3つの技術を組み合わせることによって、夜間や霧の中でも、歩行者などの認識を高速かつ低消費電力で行える予防安全システムを実現できる。このように、両社の技術を生かせるような取り組みを、さらに強化していきたい。

ドライバICの開発を強化

 主力製品の1つであるドライバICでは、モーター向けとLED向けの製品開発を強化している。

 ロームは、民生用機器向けを含めた小型モーター向けのドライバICでは、世界シェアが26%とトップに位置する。これに対して、車載用途では、カーエアコンのモーター制御向けなどでの採用実績はあるものの、まだ民生用機器向けほどには浸透していない。今後は、ホールセンサーを不要にするセンサーレス駆動の機能や、モーターの動作音を打ち消すアクティブ静音技術を採用するとともに、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)などの車載LAN規格に対応した製品を展開し、自動車業界の要求に応えていきたい。

 LEDドライバICでは、メーターの警告ランプや、車載液晶ディスプレイ(LCD)バックライトに当社の製品が採用されている。一般的に、LEDドライバICはDC-DCコンバータを内蔵しているのだが、当社はその部分に独自技術を用いることで差異化を図ろうと考えている。具体的には、昇降圧型のDC-DCコンバータについては、外付けのコイルの個数を削減できる「REGSPIC」と呼ぶ技術を採用している。また、昇圧型のDC-DCコンバータについては、スイッチング周波数を2MHzに向上した製品を2009年末に発売した。これによって、自動車のノイズ対策の基本的な周波数帯域であるAMラジオの帯域を避けることが可能になる上に、外付けのコイルを小型化することもできる。モータードライバICと同様に、CAN/LINへの対応も進める。

 自動車システムにおけるLEDの利用は、LCDバックライトのみならず、ヘッドライトや車室内照明などの分野にも急速に広がっている。当社も、これらの用途に対応するLEDドライバICの開発を進めている。例えば、発熱が大きいLEDヘッドライト向けでは、従来よりも耐熱性能の高い製品を開発するなどしている。

究極の省エネECUを実現

 現在、自動車の分野で最も世間の注目を集めているのは、電気自動車やハイブリッド車などのエコカーだ。当社も、このようなエコカーの燃費をさらに向上できるように、次世代パワー半導体であるSiC(炭化シリコン)デバイスを開発するなど、さまざまな取り組みを進めている。

 エコに役立てられる当社の技術の中でも、今後の進展が楽しみなのが、不揮発性メモリーであるFeRAM(Ferroelectric RAM)の技術をレジスタに適用したロジックICだ。このロジックICでは、制御を行っている機器の動作中に電力の供給が停止しても、レジスタに入力された情報がリセットされることはない。電力の供給を再開すれば、電力供給を止められた状態から機器の動作を再開させることができる。つまり、このロジックICでは、待機時の消費電力をゼロにできるということだ。ECU(電子制御ユニット)のコントローラとしてこれを搭載すれば、究極の省エネECUを実現できるはずだ。

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