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周波数軸での波形の評価Signal Integrity

» 2010年05月01日 00時00分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 本誌2010年2月号の『デジタル信号の近似』の回に、デジタル信号の出力波形は、ほとんどの場合、ガウス曲線とほぼ同じ形状になると説明した*1)。今回は、これについて追加で検証を行ってみることにする。

 図1は、米Texas Instruments社製のLVDS(低電圧差動伝送)ドライバICからの出力の立ち上がりエッジを示したものである。このドライバICは、出力用のSMA型コネクタを備えた専用テスト基板に実装されている。テスト基板からの出力は、同軸ケーブルを使用して、米LeCroy社製のオシロスコープ「SDA6000」が備える50Ω整合の入力端子に直接入力するものとする。


図1LVDSドライバICからの出力波形 図1 LVDSドライバICからの出力波形 2.5psでサンプリングし、平均化処理を適用して取得した波形。信号の立ち上がりエッジの前後に、わずかな振幅の変動が認められる。

 図1の波形の左端のほうに見えるわずかな変動は、前のビット信号のリンギングが尾を引いたものである。また、信号波形の立ち上がりの直前に見える小さな山は、テストに用いた機器と、ドライバIC内部のプリドライバにおけるクロストークに起因するものであると推測される。これらの変動成分は、信号本来の振幅に対してわずか1%以下の大きさとなっている。信号本来の立ち上がりエッジの直後には、小さなオーバーシュート波形が生じている。その後には、信号振幅の約2%のレベルのリングバックが続く。この歪(ひずみ)は、ドライバICが抱える何らかの要因によるものではなく、テスト基板のレイアウトに起因して生じている可能性が高い。

 このように、歪はわずかしか発生していないので、この波形の周波数解析を行えば、このドライバICの出力がガウス理論に従っているかどうかが明確になるはずだ。図1はドライバICのステップ応答を示したものだが、デジタル信号出力の周波数解析を行うには、インパルス応答を求める必要がある。そのインパルス応答を基に、周波数応答を求める。そして、それと同じ周波数特性を持つフィルタに、矩形エッジのデジタル信号を通したら、図1に示すようなステップ状の出力結果が得られるはずである。

 周波数特性を計算するには、まず、ステップ応答を基に、インパルス応答を求める。それには、ステップ波形の各点における信号の傾き(微分値)を計算することになる(以下参照)。

 x'n=(xn+1−xn)/T

 ここで、Tはサンプリング周期であり、nは何個目のサンプリングデータであるかを表す。

 次に、得られたデータ列から有限範囲を切り出す。その際には、解析の対象とする信号の本質的な特徴が反映されるよう幅を十分に広くとる。その一方で、本来のエッジの前後に生じ得る、本質的に関連のない事象が含まれないよう狭くもしなければならない。ここでは、図1に示す範囲の全体、つまり0〜5nsの間を使うことにする。この範囲で、2.5psでのサンプリングを行い、計2000点のサンプルデータを得るものとする。

 サンプリングしたデータ列を単純に切り出すとギブス現象が生じる。これを軽減するには、切り出すデータ列に対して、長さN=2000のハミング窓関数(Hamming Window)を適用する(以下参照)。

 hn=0.54−0.46cos(2πn/N)

図2周波数軸での評価結果 図2 周波数軸での評価結果 

 ハミング窓関数を適用することで、データ列の両端が滑らかにゼロになり、不連続性に起因する影響が緩和される。ただし、この演算によって、周波数分解能がわずかに低下することは知っておきたい。

 最後に、窓関数を掛けたインパルス応答に対して高速フーリエ変換(FFT)を適用することで、周波数応答を求める。その結果に対しては、周波数ゼロのポイントの応答を0dBとして正規化を施す。図2は、このようにして得られた周波数応答とガウス曲線を重ねて表示したものである。両者がよく一致していることが見て取れる。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


脚注

※1…『デジタル信号の近似』(Howard Johnson、EDN Japan 2010年2月号、p.20)


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