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差動配線ビアのスタブ終端Signal Integrity

» 2010年09月01日 00時00分 公開
[Lambert Simonovich (カナダLamsim Enterprises社),EDN]

 図1は、各端に差動ビアを備える30インチ(76.2cm)の差動チャンネルの伝送特性(伝送損失)を示したものである。緑色の曲線は、スタブのない短いビアを使用した場合の応答を表している。周波数の増加とともに滑らかに減衰し、5GHzのポイントでは−13dBの減衰となっている。

 一方、赤い曲線は、厚いバックプレーン(0.284インチ=7.214mm)に長い終端開放スタブを持つビアにおける応答である。こちらの伝送特性には、好ましくない“共振”が生じている。このような共振がビットレートのナイキスト周波数近辺で生じると、受信側においてアイダイアグラムの開口が劣化することになるだろう。


図1 ビアスタブによる損失 図1 ビアスタブによる損失 このシミュレーション結果は、米AgilentTechnologies社の「ADS(AdvancedDesignSystem)」を利用して得たものである。差動ビアと30インチの配線パターンによって損失が生じる様子が示されている。スタブのないビアの場合(緑色の曲線)とは異なり、長いビアスタブが存在する場合には非常に大きな損失が発生する(赤色の曲線)。ビアスタブを抵抗終端することにより、青色の曲線のようにノッチをなくすことができる。

 スタブによる共振は、ビアの信号通過部を伝わる信号の一部が、ビア下部の不要なぶら下がりスタブ部(ダングリングビアスタブ:Dangling Via Stub)に流れ込み、その開放終端で反射して再びメインの信号と結合することによって生じる。ちょうど1/4波長がスタブ長と等しくなる共振を発生する周波数では、ダングリングビアスタブの終端部までの往復で生じる遅れがこの周波数の半周期に等しくなる。この条件が発生すると、メインの信号波と反射波の位相差が180°で逆相となり、信号が打ち消されて伝送特性にノッチが生じる。スタブが長くなるほど、この共振周波数は低くなる。

 このバックプレーンのビアスタブは、バックドリル(裏面からのザグリ)によって、内部信号層の極力近いところまでダングリングビアスタブを取り除くことで短くできる。この複雑で高コストな工程のためには、基板レイアウトの際に、各ビアに必要なバックドリルの深さをそれぞれ抽出して指定する必要がある。時には、バックドリルの工程におけるばらつきによって、期待していたよりも長いビアスタブが残ることがある。このような問題点の存在は、基板への部品の実装を完了し、システムとしての試験を行ったときになってから、高いビットエラーという形で表面化する。

 ビアによっては、適切なバックドリルが不可能な場合がある。例えば、圧入(Press-fit)コネクタピンに対して、機械的に安定で、良好な電気的特性で確実にコンタクトするためには、ビアバレル(ビア長)として最小限の長さを確保しなければならない。最小限必要な圧入用ビア長よりも浅い信号層でピンがコンタクトする場合には、そのビアの突出部分は最適値よりも長いスタブを形成することになる。

 では、バックドリルに代わる方法は存在しないのだろうか。米Sanmina-SCI社の主席研究者であるNicholas Biunno氏は、ビアスタブを終端する方法を提案している。

 Sanmina-SCI社では、新たなMTS(Matched Terminated Stub)ビア技術を開発している。これは、基板の製造過程で、スタックアップ(多層構造)の内部に微小な金属薄膜あるいはポリマー厚膜の抵抗を埋め込むというものだ。この技術により差動ビアスタブを抵抗終端し、反射を防止するのである。基板のスタックアップの最下層に1つの抵抗層を設けることで、その基板上の高速信号のビアスタブをすべて終端することができる。適切な抵抗値は、フィールドソルバーを用いることで求められる。この方法を適用すると、図1の青色の曲線で示すように、低域部分での減衰量は増加するが、共振によるノッチをなくすことができる。これがこの手法の注目すべきポイントだ。

 このスタブ終端技術は、バックドリルを代替する有望な手法であり、その制約の多くを解決するものであるように思える。これに、電子回路による付加的な損失補償手法を組み合わせれば、従来の銅線による相互接続方法が10ギガビット/秒を超える次世代イーサーネットでも標準技術として延命することになるかもしれない。

<筆者紹介>

Lambert Simonovich

カナダLamsim Enterprises社


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