三菱電機は2010年7月、東京都内でパワー半導体事業に関する記者説明会を開催し、8インチウェーハを用いたパワー半導体の製造ラインの生産能力を2011年4月までに従来比2.5倍に増強するなどの設備投資計画を発表した。同社は、生産能力の増強を進めることにより、パワー半導体事業の売上高を、2009年度の約740億円から、2010年度に約1080億円、2015年度には約1500億円まで拡大する方針である。
今回発表した設備投資計画は、2009〜2010年度にかけて進められている。この2年間の投資金額の総計は約150億円に上る。前工程を担当するパワーデバイス製作所熊本工場(熊本県合志市)では、2011年4月までに、8インチウェーハを用いた製造ラインの生産能力を、2009年9月時点と比べて2.5倍に増強する。投資金額は約65億円。なお、既存の5インチ/6インチウェーハの製造ラインも稼働を続ける予定だ。後工程の組み立て/テストについては、パワーデバイス製作所(福岡県福岡市)と子会社のITセミコン(兵庫県丹波市)に、合計85億円を投資する。2011年4月時点の生産能力は、2009年9月時点と比べて、民生用途が2.6倍、自動車用途が2.3倍、産業用途が1.4倍となる。
三菱電機の専務執行役で半導体・デバイス事業本部長を務める久間和生氏(写真1)は、「パワー半導体の世界市場規模は、2009年時点で約100億米ドルだった。今後は、2013年に150億米ドルまで伸びるなど、大幅な成長が予測されている。特に、当社が世界トップシェアを持つIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)モジュールについては、太陽光/風力発電システムのパワーコンディショナ、ハイブリッド車や電気自動車の電動システム、新興国向けのエアコンや冷蔵庫のインバータ、鉄道車両の電力制御装置など向けで需要が急速に拡大している。これらの需要を取り込むためにも、生産能力を早急に増強する必要があった」と説明する。また、2011年度以降も、順次設備投資を進めて、「2015年度に最低でも1500億円」(久間氏)という、売上高目標の達成を目指す。
説明会では、同社におけるIGBTデバイスやSiC(シリコンカーバイド)デバイスの開発状況についても触れた。まず、IGBTデバイスでは、現在、量産に適用している最新の製造プロセスが0.4μmプロセスであることを明らかにした。同プロセスは、同社では第6世代に当たる。ウェーハを薄型化していることも特徴で、耐圧1200Vの製品では、ウェーハの厚さを130μmまで低減できている。「耐圧600Vの製品であれば、理論上はウェーハの厚さを60μmまで薄くできる。しかし、そこまでウェーハを薄くする加工技術が存在しないため、まだその値を実現できていない」(三菱電機)という。現在開発中の第7世代プロセスでは、0.2μmまで微細化を進めるとともに、ウェーハのさらなる薄型化にも取り組む。第7世代プロセスを用いたデバイスの試作は2013年にも開始する計画だ。
SiCデバイスについては、2009年12月にパワーデバイス製作所内に構築した4インチウェーハの開発ラインを用いて、SiCベースのショットキーバリアダイオード(SBD)やMOSFETの試作を開始している。2010年度は、同社内向けにサンプル提供を行って、SiCデバイスを製品に組み込むための応用開発を進める。2011年度から量産を開始する予定。久間氏は、「最初は、シリコンベースのIGBTとSiC-SBDを組み合わせたハイブリッド型のパワーモジュールとして提供する。SiC-SBDを個別部品として提供する予定はない。SiC-MOSFETとSiC-SBDを用いた、フルSiCのパワーモジュールを提供するためには、あと数年はかかるだろう」と見ている。
一方、SiCデバイスと同様に次世代パワー半導体として期待されているGaN(窒化ガリウム)デバイスについては、「大電流への対応に課題があると見ており、現時点ではパワー半導体としての開発は行っていない。ただし、高周波デバイスとしての用途では、すでにパワーアンプを製品化している」(久間氏)とした。
(朴 尚洙)
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