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ルネサスがパワーデバイス事業を強化、2012年度までに約1000品種の新製品を投入

» 2010年09月30日 00時00分 公開
[EDN Japan]

 ルネサス エレクトロニクスは2010年9月、東京都内で記者会見を開き、MOSFETやIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などのパワーICを扱うパワーデバイス事業の戦略を発表した。

 同社のアナログ&パワー事業本部は、合併前の2社(ルネサス テクノロジとNECエレクトロニクス)が展開していたアナログIC、パワーIC、光/高周波デバイス、ディスプレイドライバIC、ダイオードやトランジスタなどの汎用製品を取り扱っている。これらのうち、パワーICを扱うパワーデバイス事業の売上高は、アナログ&パワー事業本部の売上高全体の約1/4を占めるという。ルネサス エレクトロニクスの執行役員でアナログ&パワー事業本部長を務める宮路吉朗氏(写真1)は、「合併により、パワーデバイス事業で扱うパワーICとして、耐圧が150V以下の低圧パワーMOSFET、150Vより高い高圧パワーMOSFET、そしてIGBTまで、フルラインアップでそろえられるようになった。今後は、2012年度までに合計約1000品種の新製品を投入するなどして、2010年度〜2012年度までに年平均で10%の売上高成長率を達成したい」と語った。なお、今回の発表では、パワーデバイス事業の売上高目標の金額は明らかにされなかった。ただし、アナログ&パワー事業本部の2010年度の売上高目標は3300億円と発表されている。このことから考えると、パワーデバイス事業の売上高目標は、2010年度は約825億円、2012年度は約998億円と見積もることができる。


写真1 ルネサスエレクトロニクスの宮路吉朗氏 写真1 ルネサスエレクトロニクスの宮路吉朗氏 

 ルネサスのパワーデバイス事業の主力製品となるのが、耐圧が150V以下の低圧パワーMOSFETである。同社パワーIC全体の2009年世界シェアは9%で、第6位にとどまっている。ただし、低圧パワーMOSFETに限れば、2009年の世界シェアは13%とトップに位置する。ルネサスによれば、「当社の低圧パワーMOSFETは、競合他社品と比べて、オン抵抗やスイッチング損失が小さい。また、ダイオードやプリドライバを1パッケージにまとめて多機能化した製品についても、他社よりも先行できている。このため、パソコン用電源や車載システムの市場を中心に高いシェアを維持できている」という。2012年度までに投入する低圧パワーMOSFETの新製品は500品種を予定している。

 同社が得意とする低圧パワーMOSFETと比べて、より強化が求められるのが、高圧パワーMOSFETやIGBTなど、高耐圧のパワーICである。まず、耐圧が150Vを超える高圧パワーMOSFETについては、深いトレンチを形成する新構造を採用することにより、効率を96%まで高めた製品を中心として、PDP(プラズマディスプレイパネル)テレビ、液晶テレビ、通信機器の電源などの用途で展開を進める。現在、耐圧が600Vの製品を開発しており、開発が完了次第サンプル出荷を開始する予定だ。2012年度までに投入する高圧パワーMOSFETの新製品は70品種を予定している。

 一方、IGBTでは、PDPテレビ向けで60%、カメラのストロボ向けで75%など、用途別で世界シェアトップの製品を有している。これらの製品の開発に利用した、ウェーハを薄く加工する技術やパッケージ技術を基に、さらなる高耐圧化を進めるとともに、車載用途にも展開を拡大していく方針である。また、1個のIGBTと1個のダイオードを1パッケージに収容した製品の開発も進めている。2012年度までに投入するIGBTの新製品は240品種を予定している。

 なお、IGBTについては、ルネサスに出資している三菱電機のパワーIC事業がIGBTを主力製品としていることから、同社と競合する恐れがある。この問題について、宮路氏は「高耐圧のパワーIC市場において、三菱電機とある程度競合することは避けられないだろう。ただし、同社は、IGBTやダイオードなど複数の個別部品を用い、インバータユニットなどとしてモジュール化した製品を中心に置いている。これに対して、当社は、個別部品としてのIGBT、もしくは1個のIGBTと1個のダイオードを1パッケージにした製品が中心なので、激しく競合することはないと考えている」と述べた。

 MOSFETとIGBT以外の製品では、洗濯機などの白物家電の交流スイッチに用いられているサイリスタの強化も計画されている。サイリスタについては、2012年度までに150品種の新製品を投入する予定である。

 ルネサスは、海外売上高比率を高めることを全社の事業目標としている。パワーデバイス事業の海外売上高比率は、現時点で約50%程度となっている。2012年度には、これを53%にまで拡大させる方針だ。そのための施策の中核となるのが、中国市場における売上高の拡大である。ルネサスは、「マーケティングの人員を倍増して、中国向け製品の開発力を強化する。このような取り組みにより、中国市場の2012年度の売上高を、2010年度比で1.5倍にまで引き上げたい」としている。

 また、生産能力の引き上げも計画されている。前工程については、8インチウェーハラインの生産能力を、現在の2万枚/月から、2012年度には4万枚/月に増強する。後工程については、マレーシアの自社工場の生産能力を引き上げ、中国のサブコントラクタ(下請け業者)への委託も増やすなどして、海外生産を拡大する方針である。

 最後に、宮路氏は、次世代パワーICとして期待されているSiC(シリコンカーバイド)デバイスとGaN(窒化ガリウム)デバイスの開発方針について言及した。「NECエレクトロニクスで開発していたGaNデバイスについては、2011年中に高周波デバイスとして製品化する予定。パワーデバイスとしての開発も進めているが、製品化の時期は未定だ。一方、SiCデバイスについては、2011年度中にSiCベースのショットキーバリアダイオードの開発を完了させたいと考えている」(宮路氏)という。

(朴 尚洙)

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