ここまでにも何度か触れたが、電源回路では損失がどのくらい発生するのかということが大きな問題になる。ドロッパ方式のものほどではないが、スイッチング方式のPOLコンバータでも、入力電圧を出力電圧に変換する際に、損失が発生する。出力電力を入力電力で割った値の百分率を変換効率、または単に効率と呼ぶ。
損失が発生すると、そのエネルギーのほとんどは熱となり、POLコンバータの温度が上昇する。POLコンバータの発熱による温度上昇は、そのPOLコンバータの損失に比例するので、効率が高いもののほうが好ましいと言える。
また、高効率のPOLコンバータを選択することにより、システムの消費電力を抑制し、熱設計を容易にすることが可能となる。POLコンバータの温度上昇が小さいということは、周辺部品に与える熱上昇の影響が少なく、熱の影響を抑制できると考えることができる。それとは対照的に、熱放射が大きいドロッパ方式のレギュレータの場合、消費電力とドロップアウト電圧に即した放熱設計を検討する必要がある。つまり、ヒートシンクの採用や基板放熱/筐体放熱について検討しなければならない。LSIの消費電力の増大に、電源による大きな損失が加わると、周辺部品に与える熱による影響、冷却システムの適用やそのためのスペース/部品の確保などに余計な設計投資を余儀なくされ、開発コストの増加を招いてしまう可能性があるのだ。
ここで、いくつかのPOLコンバータについて、効率を測定した結果を図5に示しておく。測定に使用したのは、表1に示した3製品(ベルニクス製)である。図5のように、POLコンバータの効率は出力電流に依存して変化する。POLコンバータを選択する上では、LSIの消費電流について検討し、90%程度の高い効率を実現できるものを選択することが望ましい。
スイッチング方式の電源回路は、図2に示したように、出力電圧を入力側にフィードバックすることで出力電圧を安定化する。動的負荷変動などを改善するためには、このフィードバック回路の応答特性が重要になる。
図6は、表1に示した3つのPOLコンバータの動的負荷変動時における電圧応答の変化を実測した結果である。評価は、以下のような同一条件で行った。
ここで、出力電圧の1Vという値はハイエンドLSIのコア電圧に相当する。また、電流変化のスルーレートとは、単位時間当たりの電流量の変化率のことを表している。なお、出力コンデンサについては、各製品の推奨値を採用した。
図6を見ればわかるように、応答特性は製品によってさまざまな様相を示す。もちろん、それぞれの製品は、それぞれの狙い/用途に応じた仕様で設計されているものであり、応答特性だけでなく、効率やコスト、外付け部品の点数などさまざまな点で違いがあるし、実際のシステムでのダイナミック消費電流は、データストリーミングや演算処理といったロジック動作の性質によって変化するわけだが、図6の評価結果を見ると、ハイエンドLSIのコア電圧の推奨動作電圧を超えたオーバーシュートやアンダーシュートが発生している製品もあることがわかる。
ただし、オーバーシュート/アンダーシュートが大きいものでも、それがすぐにトラブルにつながるかどうかは、使用方法や基板レイアウト、負荷近傍の出力カップリングコンデンサなどの要因にも依存するので、一概に結論を出すことはできない。しかし、ハイエンドLSIのためのPOLコンバータを選ぶ際には、負荷電流が10Aで、5A/μs相当の大規模/急峻な電流変化に対して、LSIの推奨動作範囲の電圧変動に対応可能な負荷応答特性を持っているかどうかという観点が必要なことは明らかである。
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