電気自動車の普及には、充電インフラの普及が欠かせない。CHAdeMO協議会は、2010年3月に、電気自動車用の急速充電器を普及させることを目的として設立された組織である。同事務局代表の姉川 尚史氏に、設立から1年間の成果と、今後の方針について語ってもらった。 (聞き手/本文構成:朴 尚洙)
電気自動車(EV)は、満充電からの走行距離が100km前後と短い。そこで、EVを遠距離の走行にも利用できるようにするには、ガソリンスタンドなどに急速充電器を普及させていく必要がある。
CHAdeMO協議会の目的は、大きく分けて2つある。1つは、急速充電器の充電方式の標準化を推進すること。もう1つは、EVの充電インフラのあるべき姿を広く啓蒙していくことだ。また、これらの活動を、国内だけでなく、世界全域を対象にして行っていくことも重要なミッションとしている。現在、当協議会の企業会員数は、設立当初の約2倍となる約300社にまで増加している。これらのうち、約70社が海外の企業だ。これは、国際的にも活発な活動を推進してきたことの証しだと言えるだろう。
EVへの急速充電を行う場合、EV内の2次電池を管理するECU(電子制御ユニット)とEV用急速充電器は相互に通信を行い、2次電池の状態に合わせて充電のための電流値が最適になるように制御する必要がある。この通信に用いる「チャデモプロトコル」やコネクタの形状などを国際標準規格とするべく、 IEC(国際電気標準会議)とSAE(米国自動車技術者協会)に提案している。
提案している規格は、世界に先駆けて国内メーカーが行ってきたEVの実証実験の成果を生かしたものだ。参加企業は、いくつもの実証実験において、さまざまな失敗を経験した。世界の各地域でEVの普及を図る上で、同じ失敗を繰り返すべきではない。そのために提案しているのであって、日本企業に有利になることを期待してのものではない。
しかし、IECとSAEにおける規格検討作業においては、「日本企業が何かを企んでいるのではないか」と見られている節がある。また、米国やドイツは、急速充電と通常の充電の両方を1つのコネクタで行えるようにした規格を新たに提案しようとしている。中国も自国独自の規格を策定しているようだ。われわれの提案が国際標準規格として受け入れられるまでに克服すべき課題は多い。
とはいえ、徐々にではあるものの、われわれの意図も理解されつつある。例えば、米国や欧州の複数の企業がチャデモプロトコルに準拠する急速充電器の開発を始めている。また、欧州の電力企業などからも高い評価が得られている。
EVの特徴の1つとして、エンジン車と違い、家庭で走行エネルギーを補充できることが挙げられる。EVに注力している自動車メーカーは、この特徴をさらに強化するために、家庭での充電をより短時間で行えるよう車載充電器の出力を高める方向性を打ち出している。例えば、当初は官庁/法人向けのものとして開発された富士重工業の「プラグインステラ」の場合、車載充電器の出力は1kWである。一方、量産車であることをより強く意識して開発された三菱自動車の「i-MiEV」は2kWだ。2010年末に発売された日産自動車の「リーフ」は3kWになっている。同社は、今後、車載充電器の出力を6kWまで高める方針を打ち出している。ある海外の自動車メーカーが、家庭で用いるEV用充電器の出力を10kW以上に高めようとしているという話もある。
確かに、EVでは充電が短時間で行えるほうが利便性は高い。しかし、現在の電力網は、各家庭でこのような大出力の充電器を利用することを想定して構築されてはいない。急速充電に対応するには、電力網を作り直す必要があるだろう。その場合、社会的に非常に大きなコストを伴うし、電力料金も高くなる。短時間で大容量の電力を充電したい場合にだけ、所定の場所にある急速充電器を利用し、家庭では既存の電源を用いて充電する。こういったEVの利用法であれば、大幅な電力網の作り直しは不要だ。このようなことを含めて、EVの充電インフラのあるべき姿を提案していきたい。
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