自動車の電子制御ユニット(ECU)間をつなぐのに用いられている車載LAN規格に地殻変動が起こっている。その震源となっているのが、BMWやトヨタ自動車が進めている、イーサネットを車載用途で利用するための取り組みである。
車載LAN規格としては、走る、曲がる、止まるなどの走行系の機能をつかさどる制御系システムではCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)が、カーナビゲーションシステムなどの車載情報機器ではMOST(Media Oriented System Transport)25などが知られている。現在、CANは制御系システムの標準的な車載LAN規格として使用されており、LINはパワーウィンドウやシートなどのボディ系システムに広く採用されている。また、MOST25については、欧州の自動車メーカーの車載情報機器ではデファクトスタンダードといってよい状態にある。
ただし、CANとMOST25は伝送速度に上限がある。それぞれの最大伝送速度は、CANが1メガビット/秒(Mbps)で、MOST25が25Mbps。将来的に、制御系システムのECUで従来より大量のデータのやり取りしたり、車載情報機器の間で高品位(HD)映像を伝送したりすることは難しくなるため、それぞれ次世代規格が策定されている。CANの次世代規格に相当するのが、最大伝送速度が10MbpsのFlexRayである。一方のMOSTについては、最大伝送速度が150MbpsのMOST150の規格策定が進められている。
これらのように、車載LAN規格は、制御系システムではCANからFlexRayへ、車載情報機器ではMOST25からMOST150へ移行するものと考えられていた。
しかし、この流れは、もはや確実とは言えない状況になっている。車載情報機器であるサラウンドビューモニターなどの車載カメラシステムでは、イーサネットベースの車載LAN規格の利用を検討する動きが広がっているのだ。その車載LAN規格とは、家庭内で映像データや音楽データを伝送する用途に策定されているIEEE802.1 Audio/Video Bridging(
Ethernet AVB)を基にした車載向けの仕様(以下、車載用Ethernet AVB)である。
車載用Ethernet AVBの実用化で先行しているのがBMWである。同社は、2013年に発売する量産車のサラウンドビューモニターに、独自に仕様を拡張した車載用Ethernet AVBを採用する予定である。この車載用Ethernet AVBに対応するICについては、ネットワークコントローラ搭載マイコンをFreescale Semiconductorが、ドライバICをBroadcomが開発している(図1)。
BMWがサラウンドビューモニターに適用しようとしている車載用Ethernet AVBの仕様は車載情報機器向けとなっており、制御系システムに利用できるレベルのリアルタイム性は確保されていない。これに対して、トヨタ自動車は、ルネサス エレクトロニクス、Broadcomと共同して、制御系システムにも利用できるような拡張を施した車載用Ethernet AVBの規格をIEEE802委員会に提案している。3社が提案する車載用Ethernet AVBは、BMWのものと同様に1本のツイストペアケーブルだけで信号を伝送できるとともに、遅延時間は、通常のEthernet AVBが7msであるのに対して100μsレベルまで短縮している。最大伝送速度は100Mbpsである。
トヨタ自動車らが提案する車載用Ethernet AVBは、BMWのものとは異なり、国際標準としての規格化を目指している。規格化が順調に進めば、今後の車載LAN規格に与える影響は非常に大きいものになるだろう。例えば、国内自動車メーカーが採用をためらうFlexRayに替わって、車載用Ethernet AVBが次世代の制御系システム向け車載LAN規格の本命となる可能性もある。また、国内メーカーの車載カメラシステムに、この車載用Ethernet AVBが標準的に利用されるようになることも考えられる。
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