米MathWorks社のモデルベース設計(MBD)ツール「MATLAB/Simulink」は、自動車の制御システムや産業用機器向けモーターなどのメカトロニクス関連製品の開発に広く利用されていることで知られている。同社は、このMATLAB/Simulinkの事業展開をさらに拡大するために、太陽光/風力発電システムやスマートグリッド(次世代送電網)関連機器など、次世代エネルギーシステム分野での取り組みを強化している。
MathWorks社の日本法人であるMathWorks Japanでインダストリーマーケティング部のシニアマーケティングスペシャリストを務める遠山巧氏は、「MATLAB/Simulinkを用いた次世代エネルギーシステムの開発事例としては、大規模太陽光発電システム(メガソーラー)、風力発電システム、スマートグリッドなどがある。また、電力会社が行っている電力需要予測には、MATLABを用いたテクニカルコンピューティング(技術計算)が活用されている。もちろん、スマートグリッドと接続しての運用が想定されている電気自動車やプラグインハイブリッド車などについては、ほかの自動車の制御システムと同様にMATLAB/Simulinkが広く利用されている」と語る(図1)。
例えば、メガソーラーや風力発電システムの開発では、MBDを用いることにより、電力変換などを行う制御システムのソフトウエア開発とシステム全体の開発を並行して行うことで、開発期間を大幅に短縮できるという。遠山氏は、「メガソーラーの場合、家庭用の太陽光発電システムとは異なり、非常に大きな値の電流を扱っている。このため、システムのどこかに何らかの問題が発生したときに、家庭用の太陽光発電システムと同じように電力変換システムを急停止させるといった対応を行うと、システム全体に大きなダメージを与えてしまう。こういった事態にも対応できるような電力変換システムの制御ソフトウエアを開発するには、実際のシステムを用いた試験の結果を設計にフィードバックする必要がある。しかし、メガソーラーのような巨大なシステムは、開発が完了するまでに膨大な時間を要する上に、実際のシステムを用いた試験コストも大きくなる。そこで、メガソーラーのSimulinkモデルを用いることが有効な手段となる。同モデルを使用すれば、実際のシステムを用いずに制御ソフトウエアの動作試験を行うことができるので、開発期間の大幅な短縮が可能になるのだ。また、風力発電システムでも、風向きや風力にかかわらず一定の回転速度で風車を回すためには、風車の羽根(ブレード)の向きや風車の方向を精密に制御するためのソフトウエアを開発する必要がある。この制御ソフトウエアについても、MBDを用いることで開発期間を短縮できる」と説明する。
一方、MATLABを用いたテクニカルコンピューティングは、電力需要や電力価格を予測する用途に用いられている。例えば、スペインの電力会社であるGas Natural Fenosa社は、過去の電力供給量、気温や湿度を含めた天候の変動、各発電システムの発電コストなど、電力会社を運営する上で必要になるパラメータを連動させたモデルの開発をMATLABで行った。「同社では、電力会社に関連する法規制が変更されるたびに、数カ月かけて対応しなければならないことが悩みの種になっていた。この問題に対し、今回MATLABで構築したモデルを活用することによって、法規制変更への対応を1〜2週間に短縮できるという成果が得られた」(遠山氏)という。
MathWorks Japanは、エネルギー業界におけるMATLAB/Simulinkを用いた取り組みについてのウェブセミナーを6月23日に開催する予定だ。
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