現在のオーディオ用DACデバイスを変換方式の観点で見ると、そのほとんどはΔΣ変調方式を採用している(正確には「ΣΔ変調」のものもあるが、ここではΔΣ変調として表現する)。ΔΣ変調方式以外では、Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ、以下TI)が製品化しているマルチビット方式の品種が唯一存在している。1980年代〜1990年代には、積分型、DEM(Dynamic Element Matching)型、MASH(Multi Stage Noise Shaping)型など、さまざまな変換方式の品種が製品化されていたが、現在のデジタルオーディオ機器で用いられているのは、ΔΣ変調方式とマルチビット方式という2つの方式に集約される。なお、ΔΣ変調を「ノイズシェーピング」と呼称するケースもあるので注意してほしい。
図2に、ΔΣ変調方式を採用した一般的なDACデバイスの機能ブロックダイアグラムを示した。図2に記載された「 CLOCK MANAGER」はマスタークロック入力を処理し、デバイス内の動作タイミング/クロックを制御する機能。「OPERATION MANAGER」は電源供給から内部動作状態、設定動作などを制御する機能である。信号フローは、以下の通りである。
デジタル入力→入力インタフェース(IF)→8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルター(×8fs DF)→ΔΣ変調器(ΔΣMOD)→D-A変換(DAC)→オーディオ出力
ここで最も誤解されているのは、「ΔΣ変調器がデジタル信号をアナログ信号に変換している」という点である。これは誤りだ。ΔΣ変調器の出力はデジタル信号であり、アナログ信号への変換は後段のD-A変換部(DAC)で実行されるというのが真実である。D-A変換の方式は大別すると次の2種類となる。
(1)SFC方式(Switched Capacitor Filter)
ΔΣ変調波は一種のPDM(パルス密度変調)波であり、この信号を低域通過フィルタにてフィルタリングすることで、アナログ信号を再現する。ほとんどの場合、低域通過フィルタとしてSCFを用いる。
(2)カレントセグメント方式
カレントセグメント方式は、ΔΣ変調されたデジタル信号を使ってアナログ素子としての電流セグメント(電圧の場合もある)をスイッチングし、アナログ信号を再現する。
いずれの場合も、ハイエンドの品種では優れたオーディオ特性を実現するために、SFCやカレントセグメントを差動動作させるのが一般的である。当然のことながら、出力信号は差動形式となる。また、高性能化を目的にΔΣ変調器の量子化ビット数を、マルチビット化することもある。通常は1ビット量子化なので、1ビット方式とか1ビットDACと呼称される。
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