シンク機器の評価では、TMDS信号の電圧振幅の感度試験、スキューマージン試験、ジッタ耐力試験を行います。これらの試験は、TMDSシグナルジェネレータを用いて実施します(図4)。TMDSシグナルジェネレータは、多チャネルのパルスパターン発生器で構成されており、クロック信号とデータ信号それぞれに対して、電圧振幅、ジッタなどの任意のパラメータ設定が可能です。
シンク機器のコンプライアンステストでは、完成品のTVなどのシンク機器をテストしますので、実際にビデオ画像として映る信号を測定対象のシンク機器に入力し、目視により映像にエラーやノイズがないかどうかをチェックしてテスト結果を判定します。TMDSシグナルジェネレータは、ビデオ信号特有の非常に長いテストパターン(1フレーム分の映像信号パターン)を出力する必要があります。
シンク機器のテストポイントは機器の入力コネクタ端です。HDMIスペックで、このテストポイント(Test Point 2:TP2)での最悪波形(電圧振幅、スキュー、ジッタ)が定義されており、シンク機器は、その最悪条件の波形が入力された場合でもエラーなく信号を受信できる必要があります。TMDSシグナルジェネレータから正しく最悪条件の波形が出力されているかを確認するために、オシロスコープも必要となります。使用するオシロスコープとプローブは、ソース機器の評価に用いるものと同じ構成です。
高精度なシンク測定を効率よく行うには、TMDSシグナルジェネレータは、出力信号の振幅やジッタを正確にかつ再現性よく変化させる必要があります。振幅やジッタ量の再現性がよくないと、測定の都度、オシロスコープで出力波形を確認する必要があり、測定の効率が悪くなるとともに、測定結果の信頼性も低くなります。
図5はアジレント・テクノロジーのシンク測定用自動ソフトウェアの例です。このようなソフトを利用することで、テストに用いるビデオ信号の生成やテストレポートの作成が簡単にできますし、TMDSシグナルジェネレータやオシロスコープなどを集中制御でき、出力ジッタの調整なども自動的に効率よく実施することが可能になります。
Type Eコネクタを持つ車載用のシンク機器は、ほかのコネクタのシンク機器と異なり、車載用ケーブルの大きな減衰の影響を受けた波形でも受信できる必要があります。つまり、Type Eコネクタのシンク機器は、ほかのコネクタ機器より厳しい条件でのテストが要求されます。ケーブルの減衰による波形劣化は、ケーブルエミュレータと呼ばれる機器にTMDSシグナルジェネレータからの信号を通して生成します。Type Eコネクタのシンク機器は、車載用のケーブルエミュレータを用いて測定します。
ケーブルの評価では大きく分けて2つの方法が使用されます。1つはパルスパターン発生器とオシロスコープを用いたアイパターンのマスクテストです。このテストには、ソース機器およびシンク機器測定で用いたTMDSシグナルジェネレータとオシロスコープが使用されます。もう1つはTDRオシロスコープとベクトルネットワークアナライザ(VNA)を用いたケーブルパラメータの評価です。
アイパターンによる評価は、TMDSシグナルジェネレータでTP1つまりソース機器出力の最悪条件の波形を生成し、ケーブル通過後の波形が、TP2つまりシンク機器の入力条件の波形を満足するかどうかを測定します。アイパターンのテストは、実際の使用状況を想定した評価ですので、結果が理解しやすく、ケーブルの品質を総合的に判断できるという利点があります。一般にケーブルの挿入損失が大きくなるにつれて、ケーブル通過後の信号の振幅は小さくなり、シンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)で時間軸方向のアイパターンの開きも小さくなっていきます(図6)。
ケーブルのアイパターンの評価では、カテゴリ1のケーブルでは742.5Mbpsの信号を使用し、高速対応のカテゴリ2のケーブルでは1.65Gbpsと3.4Gbpsの測定を行います。このうち、カテゴリ2の3.4Gbpsの測定では、スペックで規定されたリファレンスイコライザを使用してアイパターンを測定します。また車載用ケーブルの測定では、HDMI 1.4で新たに規定された車載用リファレンスイコライザを適用してアイパターンを測定します。これらのイコライザは、オシロスコープにソフト的に実装され、測定した波形にイコライザを適用した後の波形が、TP2のマスクを満足するかどうかを評価します。
TDRとVNAを用いた評価では、HDMIスペックで定められたケーブルのスキュー、インピーダンス、挿入損失、クロストークの各パラメータを測定します。これらのパラメータ測定は、ほかのインターフェイスのケーブルでスペックされているものと同様の項目です。図7はTDRオシロスコープとVNAの測定器の例です。
HDMIのコンプライアンステストでは、アイパターンの測定と、TDR/VNAによるパラメータ測定の両方、またはどちらかのテストが義務付けられています。ATC(Authorized Test Center)では両方のテストを実施しますが、セルフテストではどちらかのテストがパスすれば、それでパスと見なすと規定されています。
ただしHDMI 1.4で新たに規定された車載用ケーブルは、挿入損失の値がスペックされておらず、アイパターンのみが規定されています。従って車載用ケーブルの評価には、必ずアイパターンの測定を行う必要があります。また、最近はケーブルの中にアクティブなイコライザ素子を持つActiveケーブルや、Rx/Txの機能を持つConverterケーブルが実用化されています。ActiveまたはConverterケーブルは挿入損失を直接測定できないため、これらのケーブルの評価にもアイパターン測定は必須となります。
次回は、プロトコル測定やHDMI 1.4で新しく定義された3D videoの評価方法などについてご紹介する予定です。
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