GaNトランジスタの導入で最大のメリットを得るには、システム・スイッチを後から付加するのではなく、GaNトランジスタ周辺のシステムを設計する必要があります。この作業は、設計者がGaNトランジスタの利点を生かす回路トポロジーと制御方法を選択していることが前提となります。
GaNトランジスタとSi-MOSFETの主な違いを表1に示します。表Iでは、第1世代のGaNデバイスと最新世代のSi-MOSFETを併記しています。
600Vトランジスタ | オン抵抗(mΩ) | ゲート電荷量Qg(nC) | Co(tr)(nF) | 出力電荷量(nC) | 逆回復電荷量Qrr(nC) |
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第1世代GaN カスコード | 180 | 18 | 110 | 53 | 54 |
先進シリコン MOSFET | 195 | 23 | 374 | 126 | 5800 |
表から分かるように、GaNデバイスではゲート電荷量が非常に低く、また逆回復電荷量も大幅に低くなっています。加えて、ドレイン-ソース間電圧に対する出力容量特性がより平たんになっており、シリコンデバイスに比べて優れた出力容量の電荷量を実現しています。このような違いから、GaNデバイスの動作は異なります。ゲート電荷量が低いことは、同じドライバICをより低いドライブ損失で使用できることを意味します。しかし、これだけで本当に大きなメリットが得られるでしょうか? 最良の方法は、GaNトランジスタを単純に既存の回路に挿入するのではなく、GaNで実現可能なシステム上のメリットを考察することです。ドライブ損失が低いため、ドライブ部分での消費電力を増やすことなく、スイッチング周波数を高くすることができます。スイッチング周波数を高くすれば、同一回路でより小型の磁気部品が使用できるようになります。このことは回路のタイプとシステム要件に応じて、バルクコンデンサーの小型化が可能なことを意味します。それによりスペースを節約できるので、より高い電力密度を達成できます。
Pdrive=Qg×Vgs×fsw
Qg:ゲート電荷量
Vgs:印加されるゲート-ソース間電圧
Fsw:スイッチング周波数)
電力密度の改善のために考慮する必要があるもう1つの要素は、実行可能性です。各スイッチングサイクルでトランジスタの出力容量にエネルギーが保存されますが、導通時に低抵抗でデバイスを動作させるには、これを除去する必要があります。このエネルギーを再利用する形でスイッチング回路を動作させると、スイッチング周波数が上昇しても不都合はありません。この方法をとらない場合は、トランジスタの出力におけるスイッチング損失を把握することが重要です。スイッチング損失も周波数に比例します。
システムサイズが小さい場合は熱伝導路を点検して、全動作条件下で部品およびシステムの温度要件を超えないように、残りの消費電力も適切に処理されているかどうか確認する必要があります。消費電力が同じでより電力密度が高いシステムの場合は、低電力密度の場合と同様に、システム熱抵抗を同じにして、構成部品の動作温度を維持しなければなりません。より小さな体積で同じシステム熱抵抗にするには、設計を変えるか熱伝導性の高い材料が必要となる場合があります。
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