今回は、PFC(力率改善)回路が登場した頃に設計されたと思われるスイッチング電源の修理の模様を紹介する。電源設計において何を最優先すべきかを、あらためて再認識させる故障原因だった――。
PFC電源は今や、世界標準の電源になった。PFCとは、Power Factor Correction(=力率改善)の略で、供給された電力を100%消費することを目指した環境保護を重視した回路だ。しかし筆者は20年ほど前に、このPFC電源に出会った時に少し違和感を覚えた。電源の重要な要素に安全、効率、環境保護がある。筆者はその中でも電源は「安全」を最優先にすべきと考えていたからだ。
PFC電源では一次電圧をDC400V近くまで昇圧させて使う。DC400Vは非常に電圧が高く、危険な電位である。当時は高耐圧で大容量の電解コンデンサーが少なく、電源が劣化したときに大きな事故が起こる可能性が拭えないことが、当時、違和感を覚えた理由だった。
最近になって、PFC電源の修理依頼があった。20年前の違和感が的中した事例だった。今回はPFC電源の修理例を紹介する。
修理依頼された電源は国内の著名なメーカーのスイッチング電源だった。修理依頼書には『故障』とだけ記載されていた。現物を受け取り、外観を確認したらすぐに故障の箇所が分かった。図1に故障した電源の写真を示す。
図1の基板中央部にある容量150μFの電解コンデンサーに異常な亀裂があり、大きく開弁していた。電源の入力のヒューズも切れていた。ヒューズの実装場所のシルク印刷には「15A」との記載があり、「なぜ、このような15Aもの大容量のヒューズを使うのだろう?」とも疑問に思った。図2にヒューズ部分の写真を示す。
図2でヒューズのシルク印刷をよくよく見ると「15A」ではなく「T5A」だった。表記の見間違いで「15A」と判断し、「15Aでは大きすぎる」と10Aのヒュ−ズを基板に付けてしまった。表記が「T5A」と気付いてヒューズを「5A」のものに変更した。
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