今回から、帰還ループ補償の計算とその方法について取り上げます。今回の記事では、開ループと閉ループの設計について解説します。
DC-DC電力変換設計の中で最も重要な設計の一つに、帰還ループ補償の計算とその方法があります。帰還ループのパラメータが不適切だと、コンバーターが不安定になったり、レギュレーションがうまくいかない可能性があります。
DC-DCコンバーターの帰還ループの役割は、出力を基準値のみに依存する、つまり、負荷、入力電圧、環境の変化の影響を受けない固定値に維持することです。これは簡単そうに思われますし、静的な状態やゆっくり変化する状態では比較的簡単です。しかし、動的な変化やステップ変化に対応するためには、帰還ループ設計が非常に複雑になります。採用すべき最も重要な妥協案の一つは、静的動作時の滑らかな出力(低ジッタ、低不感帯、高精度)と、動的動作への応答(速い反応時間、短いセトリングタイム、低オーバーシュート)の間でバランスをとることです。また、制御ループは、低負荷状態や無負荷状態を含む、あらゆる動作状態で安定していなければなりません。従って、帰還ループ設計は、コンバーターの全体的な性能を決定する中心的な要因の一つです。
全てのDC-DCコンバーターが帰還を使用するわけではありません。図1.30に示す例で使用されるロイヤー弛張型発振器には帰還ネットワークがありません。自己発振回路は、次の関係式に従ってトランスの物理特性と入力電圧のみによって決まる周波数で動作します。
ここで、NPは1次巻線の巻数、Bは飽和磁束、AEはトランスの断面積です。この式を並べ替えると、自走周波数fが得られます。
ロイヤー発振器は正弦波信号ではなく矩形波を生成するので、因数「4.44」を使用する標準的なトランスの式とは異なり、因数「4」を使用します。出力電圧は1次巻線の巻数NPと2次巻線の巻数NSの巻数比に依存します。
これらの関係式から、出力電圧と動作周波数の両方が固定されることはなく、入力電圧に依存することが分かります。従って、理想的には、非安定化DC-DCコンバーターは安定化入力電圧だけを使用するべきです。
実際には、ロイヤー発振器の性能を理論的な予測よりも向上させる「隠れた」帰還構造が存在します。漏れインダクタンスと結合容量により、1次巻線、2次巻線、帰還巻線は全て互いに影響し合います。コア上の巻線配置を調整することにより、この相互作用を強めたり弱めたりすることができ、ある巻線が他の巻線の影響を受けないようにすることも可能です。例えば、安定化されていないコンバーターでは、一次から二次へのカップリングを低減するための短絡回路出力がシールドを形成してしまう様に、一次巻線と帰還巻線間に二次巻線を配して、回路短絡に耐える様にすることができます。出力が短絡してもコンバーターは発振を続けますが、スイッチング部品が耐えられるかなり小さな電力で動作します。非安定化コンバーターは完全な短絡で高温になりますが、破損することはありません。短絡が解消されると、コンバーターは通常動作モードでフルパワー動作に戻ります。
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