入力電圧は2つの成分から構成されています。1つはDC成分(標準入力電流)で、もう1つはAC成分(バックリップル電流)です。
入力電流のDC成分は、さらに、負荷による入力電流とバイアス電流という2つの成分から構成されています。バイアス電流は負荷を取り外すだけで調べることができます。バイアス電流は、一般的に、無負荷時静止電流(IQ)またはハウスキーピング電流とも呼ばれます。この電流の発生原因は、出力電流が流れていないにもかかわらず、さまざまなスイッチング損失や寄生損失のためにコンバーターが発振して電力を消費し続けることと、内部電圧レギュレーターや電圧レファレンス回路が動作し続けることです。バイアス電流は入力電圧と周囲温度に依存するため、IQは通常、VIN,NOM、室温25°Cで測定します。オンオフ制御やスタンバイモードのあるコンバーターであれば、出力パワー段だけでなく内部の発振回路やレギュレーターを止めることで、静止電流をさらに減らすことができます。そうすればIOFFは常にIQより小さくなります。
実用的ヒント
入力電流の負荷に依存する部分を読みとるのは難しいこともあります。主として入力電流は入力電圧に依存するので、最小入力電圧=最大入力電流という関係は成り立ちますが、負荷に対する効率はリニアな関係ではない(図1にあるように)ために、考察が難しくなります。よって、効率は出力電流と入力電圧の複素関数になります。最大入力電流を計算したいのなら、開発者は考え得る限りの最小入力電圧、その状況で発生し得る最大の負荷、これらの条件下でのコンバーターの効率を把握していなくてはなりません(例えば、図1のようなグラフから効率値を読みとるなどして)。データシートに書かれている全負荷効率を仮定して計算をすると、多くの場合、特に、全負荷と異なる負荷を仮定した場合、不正確な数値になります。
出力短絡(S/C)電流というのは、出力ピンが相互に接続されているときに流れる出力電流です。一般的に短絡は、1Ω未満の抵抗値か、出力電圧が100mV未満になるような低いシャント抵抗値をもつ接続として定義されます。単出力コンバーターでは、短絡テストはVOUT+とVOUT−の間で行われます。バイポーラ出力コンバーターでは、VOUT+とVOUT−の間、VOUT+とコモンの間、またはVOUT−とコモンの間でテストすることができます。
実用的ヒント
多くの低消費電力の非安定型DC-DCコンバーターは短絡保護機能を備えていません。業界では、通例1秒間の短絡耐量が求められます。1秒というのは、内部部品がオーバーヒートして燃えるのにかかる標準的な時間です。よって、開発者は、短絡テストを行う前に、コンバーターが短絡保護機能を備えているかどうか、もし備えていたらどんなタイプの保護機能なのかを知っておく必要があります。つまり、サーマルシャットダウン付き電力制限なのか、電流フォールドバックなのか、あるいはヒカップなのかということです。過負荷保護は短絡保護とは異なります。もし出力電流が、出力定格の通常110%〜150%である設定限界値を超えると、電流制限付きコンバーターは出力電圧を低下させて、電流をその限界値に固定します。もしも負荷がさらに増え続けた場合、出力電圧はそれに比例して減少します。コンバーターは、一定電圧出力モードではなく一定電力出力モードで動作します。過負荷が取り除かれると、コンバーターは通常動作モードに戻りますが、過負荷が長時間続くと内部電力消費が増加し、コンバーターのオーバーヒートを引き起こし、最終的には機能停止またはサーマルシャットダウンに至ります。
しかし、もし出力が短絡した場合は、出力電流は設定限界値に抑えられますが、出力電圧は非常に低くなり、完全な短絡の場合では理論上はゼロになり、実際には数ミリボルトになります。そうして出力電力もゼロに近づき、内部部品の定格電流がより高い場合に限り、コンバーターは無限に動き続けます。このように、コンバーターは過負荷状態で機能停止することもあれば、ダメージを受けることなく無限の短絡状態を乗り切ることもあり得るのです。電流制限保護の変形版に電流フォールドバック保護があります(図2)。
電流フォールドバック保護は、出力電流が設定限界値を超えると、限界値はさらに低い値に再設定されます。DC-DCコンバーターは電力制限モードで動作しますが、通常動作時よりはるかに低い電力モードです。このモードは通常、コンバーターを電源から取り外してリセットする必要があります。電流制限や電流フォールドバックは、低消費電力から中消費電力DC-DCコンバーターには非常に有効な短絡保護方法ですが、高電力コンバーターには役に立ちません。
1Wのコンバーターの電流制限が150%だとすると、過負荷または短絡状態では500mWの余分な消費電力に対応できなくてはなりませんが、50Wのコンバーターであれば、25Wもの余分な消費電力を扱えなくてはなりません。これは、すぐに内部部品のオーバーヒートを引き起こしかねない数字です。しかし、このような故障状態での高電流を扱えるような過剰な仕様にすることは、費用的には受け入れがたいでしょう。
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