すでにマイコンを使い込まれている上級者向けの技術解説の連載「ハイレベルマイコン講座」。今回は、マイコン内のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ:Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:以下MOS)で生じる不良の1つ「ホットキャリア注入(Hot Carrier Injection:以下HCI)」について、その発生原因やマイコンに与える影響などを解説する。
マイコン内のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ:Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:以下MOS)における不良の1つに、「ホットキャリア注入(Hot Carrier Injection:以下HCI)」がある。単にホットキャリア(ホットエレクトロン、ホットホール)などと呼ばれることもある。
通常、マイコンを仕様内で使用すれば発生しないが、加速試験や何らかの問題により、仕様を超える高電圧電源で動作させた際に発生することがある。
実際、ユーザーがマイコンの仕様以上の高電圧電源を使った加速試験を行った際に不良が発生し、その不良要因についてマイコンメーカーに説明を求める事例がある。不良現象を分析すると、HCI起因と推測される場合がある。
本シリーズのメインテーマはマイコンであるため、本記事ではHCIがマイコンに与える影響について解説する。HCIに関する詳しい仕組みや特性変動については、他の文献やWeb上の記事で詳しく解説されているので、そちらを参照してほしい。
図1に、NMOS内でホットキャリアが発生する原理を示す。この場合のキャリアは電子で、ソースからドレインに移動する。電子は、チャネル領域で高電界によって高い運動エネルギーを得て加速され、ドレイン近傍で最速になる。その一部が勢い余ってゲート酸化膜に入り込み、さらにはゲート酸化膜も飛び越えてゲート電極まで入り込む。このような現象をHCIと呼ぶ。
ここで少し横道にそれて、MOS内の高電界がどの程度なのかを計算してみる。電界強度は、電圧(V)を距離(m)で割れば算出できる。マイコンの電源電圧の最大仕様は3V近辺が多いが、最近の180nm以下の微細プロセスを採用した製品では、内蔵電圧レギュレーターによって外部電源電圧を降圧し、内部回路の電源として使用している(図2参照)
そこで、ゲート長180nmのMOSに対し、電圧レギュレーターによって降圧された1.8Vが印加される場合を考える。この場合の電界強度は、
1.8V÷180nm=1000万V/m
となる。ちなみに、身近な例を挙げて電界強度を調べてみると、下敷きなどに発生する静電気は5000〜2万V/m、雷雲の下の地表面近くは3000〜2万V/m、送電線の下の地表上1mの高さでは3000V/m以下(一般地)となる。また、強制的に高電圧を作るノイズ試験装置で2000V印加する時は、1m以上離れるように試験装置の注意事項にあるので、電界強度は2000V/mになる。
これらに比べると、マイコン内部のMOSのチャネル領域は、桁違いの高電界であることが分かる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.