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3D TLC NANDフラッシュを「疑似SLC」として使用する利点とは産業用で発揮する4つのメリット(2/2 ページ)

» 2023年02月06日 11時00分 公開
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3. パフォーマンス

 信頼性の項でも触れましたが、TLCモードの場合、読み出し時やプログラム時に認識しなければならない値は8つです。これに対してpSLCモードでは、認識を必要とする値が2つだけなので、これらのプロセスは大幅に高速化されます。このため3D NANDを使用した製品では、コントローラーやファームウェアの仕様によって差はあるものの、pSLCはTLCの2倍の速度で読み出し、6倍の速度で書き込むことができます。

 pSLCモードでは、読み出しの際に確認が必要な電圧レベルは1セル当たり1つだけです。セル電圧が高い場合は「0」が、低い場合は「1」がセルに記録されます。通常のTLCモードの場合、メモリセルの1つ目のビットについては、確認が必要な電圧レベルは1つだけですが、2ビット目については2種類、3ビット目については3種類の電圧レベルを確認する必要があります。読み出しには平均して2回のアクセスが必要なため、結果的に読み出し性能が2倍に向上することになります。

 pSLCはデータの有無を2つの電圧値で表現し、消去されたセルは「1」を、プログラムされたセルは「0」を表します。このため、8段階で制御するTLCと比べて、書き込みについてもpSLCの方が明らかに有利です。加えて、TLCモードでは目的の電圧に正確に到達させる必要があるため、各セルを数段階に分けてゆっくりとプログラムする必要があります。

 特に高速な書き込みが要求される場合は、通常、長期の耐用期間が求められます。pSLCモードは両方の要件を満たしているため、こうした用途に最適な選択肢となります。

4. コスト

 TLCからpSLCに変更すると、3倍の容量のフラッシュメモリが必要になるため、同じ容量に対して必要なコストが約3倍になります。書き込み頻度の高いアプリケーションや過酷環境下で使用されているSLCを選択した場合、TLCの10倍のコストが掛かることを考慮に入れなければなりません。そのため、価格という観点で考えてもpSLCは有力な選択肢といえます。

 特にSSDの容量については優先度が低く、TBW(Total Bytes Written、総書き込み量)が主な要件となる場合にはpSLCの真価が発揮されます。一例として、あるアプリケーションでログファイルをリングバッファに書き込む場合を考えてみます。理論的にはメモリ容量32GBで十分なのですが、耐用期間の全体を通して考えた場合には300テラバイトTBWの書き込み性能が必要になるとします。これを実現するためのTLC容量を計算すると最低でも240GBが必要になります。ですが、240GBのTLCを使用する代わりに40GBのpSLCモードのSSDを使用すれば、全ての要件を満たすことができる上、コストも半分で済みます。これは、40GBのpSLCモードのSSDが、120GBのTLCモードのSSDに相当するためです。

5. まとめ

 産業用3D TLC NANDフラッシュをpSLCモードで使用するメリットを、耐用期間、信頼性、パフォーマンス、コストの4つの観点からご紹介しました。pSLCモードのTLCは、SLC NANDの数分の1のコストで、長寿命、高性能、そして温度の影響を受けにくいという特長を全て実現できるのです。なお、Swissbitは、低価格のTLCメモリと高価なSLCメモリとのギャップを埋める最適な選択肢をpSLCモードのTLCと考え、基本的に全ての製品をpSLCソリューションとして提供しています。

 本稿の最後に、データ保持性能についてご紹介します。pSLCモードのTLC NANDフラッシュは耐用期間が長いだけでなくデータ保持性能にも優れています。以下のグラフは、P/Eサイクルに対するpSLCとTLCのデータ保持特性の差を示したものです。

P/Eサイクルに対するpSLCとTLCのデータ保持特性の差 P/Eサイクルに対するpSLCとTLCのデータ保持特性の差[クリックで拡大] 出所:Swissbit

 TLCメモリの場合、3000サイクルを終えた耐用期間の終了時に40°Cでデータを保持できるのは1年間のみです。これに対してpSLCモードでは、同じメモリで1万サイクルを終えた後でも10年間にわたってデータを保持できます。

【筆者:友森健一郎、スイスビットジャパン 代表取締役】

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