廉価なデジタルビデオカメラのオーディオ性能を飛躍的に向上させるいくつかのコツを紹介する。
システム設計者にとって、デジタルビデオカメラは携帯機器とホームエンタテイメント機器双方の課題を抱えた機器といえる。スペース、消費電力、部品コストに対しては、非常に厳しい制約がある。そしてエンドユーザーは、自分が録画したものが自宅の据え置き型プレーヤで高画質かつ高音質で再生できることを期待している。このようなプレーヤでは画像や音声のエラーが非常に目立つため録音には高音質マイクが不可欠である。屋外での使用に起因する音響雑音および機構的雑音にくわえ、カメラ内の電源、モーター、電子回路のスイッチングによる電気的干渉が、高音質の実現をより困難なものにしている。
音の再生においても課題はある。携帯機器に組み込まれている小さなスピーカでは、得られる音量や音質に限界がある。これらの問題については、アナログの回路設計、デジタルの信号処理、回路基板におけるレイアウトなど、さまざまな角度から対策が可能である。
家庭用のデジタルビデオカメラには、1つ以上の内部コンデンサマイクに加えて、外部のコンデンサマイクまたはダイナミックマイク用の入力ジャックがある。これらの部品は、プリアンプ、A-Dコンバータ、DSPなどの機能ブロックにつながっている(図1)。そしてそれぞれにおいて、信号に雑音や歪みが加わる。外部雑音源を除けば、この信号チェーンにおける最も弱い部分が、全体のSN比とTHD(total harmonic distortion)を左右する。多くの場合プリアンプかA-Dコンバータがそれに該当し、これらは部品コストおよび消費電力においても大きなウェイトを占める。
マイクカプセル部には、FETバッファが内蔵されており、信号がプリアンプに到達するまでに受ける干渉を低く抑えている。しかしそのFETも熱雑音を発している。さらに、このバッファを駆動するマイクのバイアス電圧に含まれる雑音が音声信号に付加されてしまう。この処理における信号の振幅は非常に小さいため、SN比は大幅に低下する。したがって電源のノイズ低減が最も重要になるのは、このマイクカプセル部である。
マイクが音源に近づいたり離れたりすると、音声信号の強度は一見ランダムに変化する。このような変化を和らげるALC(automatic level control)は、ポータブルマイクにも内蔵マイクにも必要である。ALCは、信号パスに可変利得または減衰処理を導入することで、記録する信号の強度をほぼ一定に保つ。この可変利得は、音声信号だけでなく、ALCの前に加わった雑音にも作用する。
デジタル化された信号で動作するデジタル回路では、A-Dコンバータによる一定の量子化雑音が無音部分でも信号とともに増幅される。信号強度が減少するため、SN比は大幅に低下していく。A-Dコンバータによって量子化雑音が加えられる前に、アナログ領域で信号を増幅すれば、SN比を向上できる。
しかし、アナログのALC回路でも、FETバッファで発生する熱雑音は増幅されてしまう。無音部分が強いホワイトノイズ(雑音ポンピングとして知られる現象)で埋め尽くされるのを避けるには、ALCをノイズゲートと併用すべきだ。ノイズゲートは、信号振幅が雑音フロア近くまで低下したときにその信号をカットする。可能ならば、ALCのタイミングも信号の種類に合わせて調整するとよい。音楽のように音量の変化が意図的に起こされる音声に比べ、人の会話はホールド時間と減衰時間を短くした方が良い音質を得られることが多い。
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