一般的な定義でいう「音響雑音」は、声、音楽、車の騒音など、マイクが拾う不要な音のことを指す。こうした雑音の発生源は「軸」から外れた場所にあることが多い。すなわち、カメラレンズが向いていない方向から飛んでくる。指向性の高いショットガン型マイクであれば、軸から外れた雑音を拾うことが大幅に少なくなるが、同時に軸から外れたすべての音に対する感度も非常に低い。周囲の音も拾いたい場合には、カージオイド型もしくは全指向性のマイクが適している。ビデオ撮影のプロは、目的に応じて使い分けられるよう数多くのマイクをもっているが、アマチュアであればズームマイクがあればいいだろう。このマイクは、実質的には異なる方向に向けた2つのマイクを組み合わせたものや背中合わせに装着された振動膜の対であり、それぞれで拾い上げた音声を光学ズームの操作に依存した比率で合成する。ワイドアングルでは全指向性になり、ズームインするにしたがって指向性が鋭くなる。
マイクに風が直接当たると、風雑音が発生する。その性質上、発生は不規則であり、低周波数帯域を占める。風雑音はウィンドスクリーンでかなり抑えることができるが、風の強い条件下ではさらにハイパスフィルタを使用するべきである。200Hz付近の周波数をカットする2次フィルタが効果的だ。このようなフィルタは信号の低域部分もカットしてしまうため、必要な場合にのみ使用することが望ましい。これらのフィルタは簡単にデジタル領域に実装して、オーディオICに組み込むことができる(図2)。
ほかに、“p”、“b”、“t”などの破裂音をマイクに吹き込んだときに起きる雑音がある。これらの音の信号は、ほとんどが低周波数帯域に集中しており、他の音に比べて振幅が大きい。そのため、破裂音は風雑音のようにデジタル領域で除去できない。ピークにおける振幅の大きな信号によってA-Dコンバータが飽和状態となり、信号がA-Dコンバータのレンジ内に収まるまで、デジタル音声にわずかな無音状態が発生してしまう。この現象は、アナログ・ピークリミッタや、アタックタイムの短いALCを使って軽減することもできるが、コストのかからない方法があるので紹介する。マイクのソースインピーダンス、プリアンプの入力インピーダンス、その間のカップリングコンデンサで、カットオフ周波数が静電容量に応じて変化する1次ハイパスフィルタを形成できる。このコンデンサは、通常マイクで拾える低音域のレスポンスを保持できる容量があればよい。静電容量を適切な値に下げるだけで、コストをかけることなく多くのタイプの低周波数雑音を抑制できる。
マイクの振動膜は、音波だけでなく物理的な振動や衝撃にも反応する。デジタルカメラなどの携帯機器に搭載された場合、この反応が雑音の問題につながる。まず、内蔵マイクはプッシュボタンやケーブルといった部品の動きで生じる振動音を拾ってしまう。カメラが揺れるときは、こうした部品が動かないようにする必要がある。次に、カメラを持っている手の機械操作が、低周波域と超低周波域に大きなピークを発生させてしまう。
緩衝装置を家庭用カメラに組み込むことは現実的ではないため、あとはフィルタを使うしかない。破裂音のときと同様に、マイクのカップリング容量を小さくすることで、機構的雑音の最大ピークは遮断できる。必要であれば、デジタル領域に別のハイパスフィルタを併用することで、この処理を補完することもできる。しかし、操作による雑音のうち、筐体を爪で叩く音など高周波のものが発生した場合、遮断周波数が可聴範囲内に入ってしまう。したがって、低域全体をむやみに抑制するよりも、ユーザーに優しく扱うよう促した方が得策であろう。
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