欧州の環境保護指令が間もなく施行され、多くの企業がRoHSに準拠した設計を行うために、課題の克服に追われている。
2006年7月1日から、EUで販売される電子機器にはRoHS(特定有害物質の使用制限)指令への準拠が義務付けられ、違反すれば販売禁止と罰金のペナルティが課される。しかし、いくつかの免除措置がとられていることから、部品サプライヤがRoHS準拠部品と非準拠部品の両方を販売する可能性がある。この状況は設計エンジニアにとって、準拠製品にするための適切な部品を探しては確認するという面倒な作業を増やすことになる。
RoHS指令は、最終的にゴミとして埋め立てられた時に地下水を汚染する恐れのある電子機器から有害物質を取り除き、環境破壊を防止することを目的として制定された(別掲記事「RoHS指令の概要」参照)。指令準拠を徹底させるため、EU加盟国には非準拠製品の販売を禁止し、製品メーカーに罰金を課すことが許されている。したがってRoHS指令への準拠を怠ったメーカーは、約4億人の見込み客が存在する数10億米ドル市場から締め出される恐れがある。
使用が制限されている物質の1つは、メーカーが50年以上にも渡ってはんだメッキに使用してきた鉛である。残念ながら、すず含有率が高い鉛フリーはんだには、従来のはんだ合金よりも扱いにくくコストがかかるという欠点がある。溶融温度が高く、剛性があり、流体時の表面張力が低いため、表面実装部品を位置合わせするためのはんだの張力が落ちる。すずを使用したメッキの主な弱点は、処理後の表面上にウィスカと呼ばれる微細な金属のひげが発生しやすいことだ(図1)。ウィスカは高密度パッケージ内で短絡回路を形成するほどに長くなったり、折れてプリント基板を汚損したりする可能性がある。
これらの欠点を考えると、エレクトロニクス業界が規制による圧力を受けるまで鉛フリーはんだへの移行をちゅうちょしていたのも不思議ではない。問題は、この規制による圧力が、業界全体に平等にいきわたっていないということだ。RoHS指令の主な焦点は民生電子機器にある。そのため、ネットワーク機器や製造施設で使用される産業用製品など、一時的あるいは永久的に準拠義務が免除される製品がでてきた(別掲記事「RoHSの免除措置」参照)。
こうした規制の不公平さが、鉛フリーはんだの欠点と相まって、鉛含有部品と鉛フリー部品が混在する市場を作りだしている。カドミウム、水銀、6価クロム、難燃剤などの物質に対するRoHSの規制も、ワイヤーやケーブル、シャシーメッキ、パッケージの材料に同様のばらつきを生み出している。
このような混在市場が存在することで、RoHS準拠製品の開発を迫られている設計エンジニアは、部品を探し出し、その準拠を保証しなくてはならないという2つの課題に直面している。設計チームは、新しいRoHS準拠設計の部品を評価するために必要な時間と労力が予想をはるかに超えていることに気付き始めた。加えて免除措置に関する混乱もあり、RoHS指令への対応に遅れをとった設計チームもある。
マシンビジョン機器メーカーの米Cognex社はその典型例である。「最初にRoHS指令を調べたとき、当社は免除対象だと思った」とCognex社ハードウエアエンジニアのReza Vahedi氏はいう。「しかし確信がもてなかったため、準拠設計への変更を18カ月前に始めた。その後、エンドユーザーが準拠する必要があるために自分達のシステムも準拠させなくてはならないという顧客からの問い合わせが数多く寄せられるようになった」。Vahedi氏によれば、Cognex社が部品を調べ始めたとき、部品がRoHS準拠であることを示すナンバリングまたはID体系がベンダーによってばらばらであったという。部品の準拠を実証する書類も統一されていなかった。
多くの設計チームから同様の問題点が報告されている。米Bear Power Supplies社エンジニアリングディレクタのMichael Allen氏は、「部品の調達が本当に難しい。RoHS部品番号を記載している企業があっても、まだ製造に着手しておらず、在庫はないということが後になって判明することもある」と語る。免除と非免除の両方のアプリケーションで使用される多くの基本部品は、今になってようやくRoHS準拠品が入手できるようになってきたが、メーカーは他の非準拠部品を製造し続けている。「お気に入りのヒューズなど、16年間にわたって使い続けてきた部品のRoHS準拠品がやっと出回りつつある。しかし、2006年7月1日のデッドラインに合わせるためには生産ラインを今の時点で準拠させる必要があるため、設計エンジニアは代替品の特定と設計に大わらわだ」(Allen氏)。
結果として、設計チームは全部品の準拠を再確認するか、RoHS準拠品が入手不可能な場合は代替品を探すという非常に手間のかかる作業を強いられた。「まったく骨の折れる作業だ」とAllen氏はこぼす。RoHS準拠品が入手できる場合でも、特定のパッケージ仕様に限られ、プリント基板の設計をやり直さなくてはならないこともあるという。
さらにAllen氏は、サプライチェーン内のいたる所で準拠品と非準拠品が混在しており、それらを分けさせることは難しいだろうと指摘する。「RoHS準拠品をつくっていても、それに使用する新しい部品番号を持っていないメーカーもある。1つの工場でのみRoHS準拠品をつくっているメーカーもあれば、特定の日付以降に製造し始めたメーカーもあるため、暗号のような表示を頼りに準拠しているかどうかを確認しなくてはならない」。
表示の問題はベンダーにとっても悩みの種だ。「当初、我々には部品番号を変更する考えはなかった」と、米Fairchild Semiconductor社品質管理マネジャーのKirk Olund氏はいう。「RoHS準拠品と表示しても、部品の電気的あるいは機能的性能に影響があるわけではないので、単にリードフレームの仕上げが変わるだけと考え、材料仕様変更通知を行うことで対応した。しかし顧客からの要望があり、今では新しい部品番号を使用している」。
欧州議会RoHS(特定有害物質の使用制限)指令2002/95/ECは、EU内で販売される電気・電子機器のメーカーに、有害物質の使用制限を義務付けたものである。鉛、水銀、カドミウム、6価クロム、PBB(ポリ臭化ビフェニル)、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の使用が禁止されている。修正案2005/618/ECでは、これらの物質の最大含有率がカドミウムで0.01%、その他で0.1%と明確に規定されている。
これらの物質は広く使用されているため、この指令は電子機器の設計と製造に様々な影響を及ぼしている。たとえば、鉛は長年にわたってはんだとメッキの主要材料として使用されてきた。水銀はリードリレーや蛍光灯など多様な製品の材料となっている。カドミウムは電池やフォトセンサ、ワイヤーやケーブルなどに使用されている。6価クロムはシャシーのメッキ材料として、PBBとPBDEは難燃繊維や他の材料に広く使用されている。
EU内で製品を販売するメーカーは、2006年7月1日時点でこの指令に準拠していなくてはならない。EU加盟国は準拠を怠ったメーカーに対して任意のペナルティを課すことが認められている。
RoHS(特定物質の使用制限)指令では、数多くの免除項目と、準拠の必要がない機器のカテゴリが規定されている。例外としては、特定種類の蛍光灯に使用される水銀、CRTと蛍光灯管ガラスに使用される鉛、サーバー、ストレージ、ストレージ・ディスク・アレイシステムのはんだに使用される鉛(2010年まで)、ネットワークインフラ機器のはんだに使用される鉛などがある。また、大型の固定産業用工具、修理機器のスペア部品、車載用ラジオなど異なるカテゴリの機器の部品として使用されている電子機器にはこの規制は適用されない。電池にはまた違う規制が適用される(別掲記事の「グリーン電池」を参照)。軍事機器に対する免除措置についてはまだ結論がでていない。
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