メディア

静電容量タッチセンサーの「今」をつかむミックスドシグナル技術で大きく進化(5/5 ページ)

» 2006年09月01日 00時00分 公開
[David Marsh,EDN]
前のページへ 1|2|3|4|5       

評価キットの中身

 多くの設計者は、静電容量タッチセンサーに対し、頑強性に欠ける、あるいは設計が難しいという印象を持っているはずだ。そのため、タッチセンサーICベンダーは、ユーザーがそうした問題点について評価できるように、評価キットを提供している。

 Analog Devices社の「Scrollwheel-3」は、67mm×67mm×28mmのABSプラスチックの箱ボックスに2枚のプリント基板を格納している。メインのボードは、同社のマイクロコントローラ「ADuC841」、Cypress社のマイクロコントローラ「CY7C68013A-56」、3.3V出力のレギュレータ、一対のクロック発振器を搭載している。裏面には、USBに対応するための過渡電圧サプレッサと、CY7C68013A-56の起動に使われる64KビットのシリアルEEPROM、シュミットトリガーゲートがある。2個のプッシュボタンスイッチは、リセットとプログラムの入力に使われる。このボードでは、4ピンヘッダを介してADuC841の送信/受信ラインを外部プログラマデバイスに接続できるようになっている。

 Scrollwheel-3と同様のハードウエアを搭載した同社の評価ボード「Eval-AD7142」がウェブ上で199米ドルで販売されている。Scrollwheel-3とはボタンのサイズが異なり、2個のリニアスライダと、8ウェイスイッチが搭載されている。

 筆者は、Scrollwheel-3のデモユニットを利用し、AD7142のチップと直径27mmのプリント基板を使ってセンサーを形成した。そのうえで、2つのアセンブリを10ウェイフラットケーブルで接続した。

 ADuC841は、SPIを介してセンサーチップを制御し、汎用I/Oを介してUSBインターフェースチップと通信する。システムの心臓部はセンサーチップとセンサーボードである。Analog Devices社は、シンプルなボタンセンサーにはドライバソフトウエアは不要だが、ジョイパッドとスライダには検知領域間を補間するためにホストに常駐する処理ルーチンが必要だとしている。同社はスライダのプログラムに必要な記憶領域として3KバイトのROMと500KバイトのRAMが必要だと見積もっており、1MIPS以上のプロセッサを使用することを推奨している。

 Scrollwheel-3では、サンプルのMP3プレーヤアプリケーションを評価ボードのパッケージに追加できるようになっている。デモ用のハードウエアはこの単一センサーアプリケーションを起動時にダウンロードし、評価ボードはそのボタンとスライダ用のデモルーチンをロードする。汎用機能には、AD7142の動作モードを設定してレジスタの値を校正する機能が含まれており、ソフトウエアは静電容量値をデジタル値に変換するコンバータの出力を常にレポートする。

図A Scrollwheelのデモ画面 図A Scrollwheelのデモ画面 

 Scrollwheel-3のデモでは、8個の検知領域周辺の指位置と、出力可能な128のコードが表示される。またこのデモでは、検知領域からの相対出力がヒストグラム形式で表示される(図A)。これらの機能により、チップのレジスタ設定を変更することによる影響を評価できる。デフォルト値では、隣接するコード間のジッターが最小限に抑えられた平滑で連続した応答が返される。

 Cypress社の「CY3212 CapSenseトレーニングキット」(89米ドル)は、127mm×77mmのメインのボードに「CY8C21001」と5V出力のリニアレギュレータ、ブザー、7個のボタンの検知領域、リニアスライダを組み込んだものだ。CY8C21001のエミュレーションポートを使用することで、すべてのCapSense PSoCをエミュレートできる。1対のヘッダーと、ホストのパソコンへの接続用ミニUSBケーブルとを組み合わせることで、チップのI2Cポートと、「PSoC MiniProg」プログラマ用のプログラミングラインにアクセスできる。また、RJ45ソケットには、オプションの「ICE-Cube」の接続が可能である。このエミュレータは、「CY3215DK PSoC」開発キット(599米ドル)に含まれている。2ライン、16文字の液晶ボードをメインのボードに接続することで、システムの状態が表示できる。

 同キットには、「PSoC Designer」と「PSoC Programmer」のインストールファイル、サポートファイル、ドキュメントが格納されたCD-ROMが含まれている。アップデート版や補足資料がないかウェブで調べてみると、8つの新しいCapSenseプロジェクトと、PSoC Designer 4.2へのSP3アップデートが見つかった。アップデートファイル(77MバイトのZIPファイル)をダウンロードしてCapSenseユーザーモジュールを追加する前に、まず基本アプリケーションをインストールする必要がある。現在リリースされているキットには、トレーニングプログラムを格納した2枚目のCD-ROMが含まれている。しかし、最初にリリースされたキットにはそのようなCD-ROMは存在しなかった。そのため、今回のテストではウェブから入手できるCapSenseプロジェクトを使用することにした。

 これらすべてを準備したら、次にパッケージを解凍して、PSoC Designerから目的の.socプロジェクトファイルを実行し、それをMiniProgプログラマを使用してボードにダウンロードする。これでホストのUSBポートを介してCY3212ボードを起動できる。

 PSoC Designerから任意のサンプルを実行してコンパイルに失敗すると、「処理を終了します。コンパイラのライセンスが無効です」という旨のメッセージが返される。この時点で、ボタン/スライダのサンプルを試すには、Cコンパイラ(145米ドル)が必要であることが分かったが、オンラインストアで在庫をチェックすると、納品までに4〜6週間かかるということであった。幸い、ZIPファイルに、それぞれの出力サブディレクトリ内でプリコンパイルされた16進形式のファイルが含まれていたので、rebuild-allコマンドを使ってCソースのコンパイルを行った。PSoC Designerは、プログラマにとって魅力的なIDE(統合開発環境)機能と、ドラッグ&ドロップで処理が可能なブロックコンフィギュレーションコントロールを提供している(図B)。

図B PSoCDesignerの操作画面 図B PSoCDesignerの操作画面 

 ボタンファイル、スライダファイル、ボタン/スライダファイルをMiniProgを使ってボードにダウンロードし、それぞれを実行してハードウエアが正常に動作していることを確認する。通常のテストでは液晶ディスプレイによって正常なボタン動作が行われていることが通知されるが、スライダサンプルでは正確な位置データを取得するために、厳密な指の位置情報が必要となる。

 筆者が試した限りでは、スライダのみのサンプルのほうが、ボタン/スライダのサンプルよりも応答性に優れているように思われた。面白いことに、この応答性は時間の経過とともに向上するようであった。どのセンサーもプリント基板の反対側に置いた指を検知せず、近接ではなく、明らかな接触を検出した。これは、アプリケーションによっては都合の良い特性である。

図C Quantum社のE160評価ボード 図C Quantum社のE160評価ボード 

 Quantum社の「QT160」は、厚さ100mmまでのガラスパネルを通して最大6個までのキープレスを検知する。評価ボード「E160」(74米ドル)は、ユーザーによるプログラミングを必要としない(図C)。

 QT160は、常に電力が供給される屋内環境での検知に用いられる。ロジック回路の同期をとるために10MHzの外部共振器を必要とし、5V電源で通常2.5mAの電流を消費する。評価キットには9Vの電池が含まれている。QT160は隣接キー抑制機能を備え、個々のチャンネルの感度を設定するキャパシタを搭載しているほか、6つのロジックレベルを出力する機能を備える。また、トグルスイッチモードをサポートしており、異常に長いキープレスに対応するための再校正タイムアウトオプションが追加されている。隣接キー抑制機能はこの製品の特に重要な機能であり、3つまでの同時検知が可能となっている。

 同様に、同社の「E401」デモスライダも、ユーザーによるプログラミングを必要としない。このキット(95米ドル)は、センサーIC「QT401」と、ABSプラスチックパネルに装着された18極プリント基板で構成されている。FR4基板からABSパネルまでの距離は約3mmである。10線の非シールドケーブルを用いて、米Microchip Technology社のマイクロコントローラ「PIC16F873A」によるSPI-USBコンバータと、英FTDI(Future Technology Devices International)社のUART-USBインターフェースチップ「FT232BM」が格納されたインターフェースボックスにボードを接続する。この製品に付属するCD-ROMには、ボードを常にポーリングして指の位置を返す小規模なパソコン常駐プログラムが含まれている。トラックセンターでは10mm以上、他の平面ではもう少し短くなるが、このシステムの近接検知能力には目を見張るものがある。デフォルトのセットアップ値を用いた状態で、指でしっかりと押したときの応答は、ワーストケースでも128ポイントの出力範囲内で、わずか1つの値に対してジッターが発生する程度となっている。


前のページへ 1|2|3|4|5       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.