ネットワークの信頼性を高めるには、クロックのホールドオーバー機構が劣化するのを防ぐために、タイミング階層を保持する必要がある。人間がプロビショニング用のルールを管理/制御するため、例えば、CO(中央オフィス)とそれより小規模なリモートオフィスとの間でPOP(post office protocol)を用いてタイミング階層のループを形成する方法はいくつも存在する。その中でも比較的容易なのは、ネットワーク内で配信タイミングループを構成する方法だ。例えば、ネットワークエレメントAがエレメントBに基準信号を提供し、エレメントBがエレメントCに基準信号を提供し、エレメントCがエレメントAに基準信号を提供するのである(図1)。SONET(synchronous optical network)およびSDH(synchronous digital hierarchy)リングアプリケーションでは、アーキテクチャ自体がループを構成し、そのループによってタイミングを配信しなければならない。そのため、特にタイミングループの影響を受けやすい。
ネットワークがGPSからの基準信号を失うと、タイミングループによってネットワークに予期せぬ大きな問題が生じる可能性がある。ループによって発振器が「調整範囲」の限界に達し、大きな周波数オフセットが生成されることで、ネットワークエレメントが隔離され、トラフィックの遮断が生じてしまうのである。
ここでいう発振器の調整範囲とは、発振器の中心周波数を中心とし、そこから外れてもかまわない範囲のことである。発振器は、GPSに基づくPRS信号が利用可能な場合はそれを中心とし、ネットワークエレメント間の同期を維持する。しかし、GPSに基づくPRS信号が利用できない場合、発振器は中心周波数からずれていき、ネットワークエレメント内の各発振器の間に差が生じることになる。発振器がその中心周波数からずれればずれるほど、正確な同期を提供できる期間が短くなる。
タイミング基準信号がループ内で送受されるようになると、タイミングの精度はすぐに劣化していく。例えば、入力PRS信号を中心とする、調整範囲が1×10−8の水晶発振器について考えてみよう。基準信号を共有するため、水晶発振器の周波数は、中心周波数の上または下に変動することができる。タイミングループによって基準信号がずれてしまった場合、水晶発振器は直ちに調整範囲のいずれかの限界値に達する。発振器の調整範囲が狭いほど、中心周波数から変動できる幅は小さくなる。つまり、発振器の調整範囲とその固有精度は関連している。例えば、ルビジウム発振器の調整範囲(固有精度)は10−9程度であるため、元のPRS信号からほとんどずれることがない。従って、調整範囲の限界値に達したとしても、ルビジウム発振器はネットワークに直ちに影響を与えることなく、十分に正確な同期信号を維持することができる。
タイミングループによる問題が生じないようにタイミングを配信する1つの方法は、階層に従ってタイミング基準信号を伝播させることである。その際、タイミング基準信号は、自身よりも精度の低い基準信号に従うことはないようにする。例えば、Stratum 2のコンポーネントは、Stratum 3のコンポーネントにタイミング基準信号を提供することができるが、Stratum 3のコンポーネントは、Stratum 2のコンポーネントに基準信号を提供することはできないようにするということである。このようにすれば、調整範囲が広く、精度の低いホールドオーバー発振器からの信号が、調整範囲が狭く高精度なホールドオーバー発振器を妨害することはなくなる。表1に4つのStratumレベルと、それらの精度、ネットワークにおける典型的な位置、およびそれぞれに要求されるホールドオーバー発振器の種類をまとめておく。
タイミング基準信号が損なわれて中心周波数からずれること以外に、発振器にはドリフトの問題があることを認識しておく必要がある。GPSベースのPRS信号が利用可能である場合、ホールドオーバー発振器は絶えずそのPRS信号を参照する。つまり、PRS信号に同期することになる。PRS信号が利用できなくなり、システムがホールドオーバー発振器に頼らざるを得ない状態になったとき、発振器のドリフトが問題となる。この場合、ホールドオーバー発振器は自分自身で問題を解決しなければならない。ホールドオーバー発振器のドリフトにより中心周波数からどれだけ早くずれてしまうかは、発振器の精度に依存する。つまり、ホールドオーバー発振器が正確な同期タイミング基準を維持する能力は、調整範囲およびドリフトに依存するということだ(図2)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.