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ネットワークのタイミング管理高精度のクロックでシステムの信頼性を高める(3/3 ページ)

» 2006年11月01日 00時00分 公開
[Jim Olsen/Kishan Shenoi(米Symmetricom社),EDN]
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セトリング時間の最小化

 ホールドオーバー発振器は、個々のネットワークエレメント、またはネットワーク全体へのクロック配信をつかさどる。これにより、全体的なタイミング精度が決まる。しかし、ネットワークの時間精度に関しては、もう1つ考慮しなければならないことがある。それは、セトリング時間だ。ここでいうセトリング時間とは、システムがPRS信号を失ってから、ホールドオーバー発振器のみによるタイミング基準信号に適応するまでにかかる時間、ならびにGPSからのPRS信号が回復してシステムが再びそれに適応するまでにかかる時間のことである。

 従来、発振器は調整電圧を用いてその周波数を維持していた。発振器にドリフトが生じると、システムは調整電圧を制御することにより、発振器の周波数を維持する。しかし、発振器とアプリケーションによって2年から10年くらいの幅はあるものの、いずれは電圧調整範囲の限界に達する。通常は、ネットワークエレメントにおいて発振器を元の中心電圧に戻すには、手作業による再調整が必要である。それに対し、最新式のネットワークタイミングシステムでは、DDS(direct digital synthesis)により、手作業での調整の手間が省かれている。DDS回路では、自励発振器により、入力されたPRS信号に同期可能な内部基準信号を生成することができる。DDS回路ではアキュムレータなど、よく知られたデジタル機能ブロックが使用される。デジタル信号によって出力周波数を制御することで、マイクロプロセッサの制御が簡素化される。DDS回路を用いれば、発振器のドリフトを容易に補正でき、20年以上も使用することが可能である。

 DDSでは、システムがGPSに基づくPRS信号を利用できない場合、発振器からの信号のみに頼ることになる。基準周波数の変化が非常に大きい場合、タイミング信号の位相が変移し、ネットワークエレメントの同期が外れてしまう恐れがある。また、そうした同期が外れたエレメントが基準信号に再び同期しようとするときに、ネットワークエレメントに何らかの異常が生じることがある。従って、同期が外れないようにするために、システムは新しい基準信号に時間をかけて適応する必要がある。

 セトリング時間は、ネットワークエレメントの基準タイミング信号が変化するときに必ず生じる。システムが短時間だけGPSベースの基準信号を失った場合でも、システムが同期外れに対応し、またPRS信号の回復に対応するためにセトリング時間が必要となる。セトリング時間が長いほど、システムの信頼性に大きな影響が及ぶ。

 一般に、セトリング時間は、PRS信号とホールドオーバー周波数との全体的な差に依存する。周波数のドリフトが大きければ、セトリング時間は長くなる。また、調整範囲が狭ければ発振器のセトリング時間は短くなり、ネットワークを早く安定状態に回復させられる。

さまざまな要因の考慮

 ここまでに述べてきたことから、各Stratumレベルのネットワークで使用するホールドオーバー発振器を選択する際には、さまざまな要因について考察する必要があることが分かる。一般に、発振器の精度と信頼性が高いほど、その価格も高くなる。何も考慮せずに精度の低いホールドオーバー発振器を使用すると、ネットワークの信頼性に直接影響が及ぶ。一方、精度の高すぎるホールドオーバー発振器を選択すると、コストが無駄に増大してしまう。

 まず最初に考慮すべきことは、システムがホールドオーバー周波数を使用した状態でどれだけの期間運用し続ける必要があるのかということである。技術者が迅速にPRS信号の損失に対処できるのであれば、長時間のホールドオーバーは必要ない。しかし、信号の損失が数日、あるいは数週間も続くのであれば、同期を維持してその間のネットワークの信頼性を持続できるようにするためには、より高精度なホールドオーバー機能に頼るしかない。

 2つ目に考慮すべき点は精度である。水晶発振器は、実用上問題のないタイミング信号を数時間から数日間、提供することができる。しかし、その後は、ネットワークエレメントのタイミング精度は、発振器が基準としていた元の基準信号(またはPRS信号)の精度ではなく、水晶発振器の精度まで劣化する。ミッションクリティカルなアプリケーションでは、(アプリケーションにもよるが)30日以上正確な基準を維持できるルビジウム発振器を使うとよいだろう。

 また、ホールドオーバー発振器がシステム全体に与える影響についても考慮する必要がある。例えば、ネットワークエレメントがタイミング信号をタイミング階層の下位へと伝播していく場合、下位に行くほど、精度の低いホールドオーバー発振器によって劣化が促進されてしまうといったことだ。

 さらに、セトリング時間がネットワークに及ぼす影響についても考慮しなければならない。例えば、ネットワークエレメントではオーブン制御水晶発振器の精度で十分な場合でも、セトリング時間を最小化するためにルビジウム発振器を使用することで、PRS信号の損失や、回復時の影響を抑えることが可能になる。

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ネットワーク | 周波数 | 通信 | プロトコル


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