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レギュレータの出力電圧降下Signal Integrity

» 2006年12月01日 00時00分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 先月号で説明した通り、図1のモデルにより、ほとんどのスイッチングレギュレータの低周波領域での主要動作を表すことができる。コンデンサC2、抵抗R2、インダクタL2は、典型的なデカップリングコンデンサ群の特性を表す。100kHz以下の応答をモデル化する場合は、L2の値を0にすることができる。抵抗R1は、レギュレータのレギュレーション抵抗、またはスティフネスをモデル化する。また、インダクタL1は応答時間特性をモデル化する。


図1 スイッチングレギュレータのステップ応答(低周波領域) 図1 スイッチングレギュレータのステップ応答(低周波領域) 

 ここで、少し変わった試みを行ってみる。レギュレータの出力に直列抵抗を付加し、R1の値を実質的に増加させるのである。負荷に電流を流したとき、このR1の増加によってレギュレータ出力Vccの電圧降下量が増加する。この状況は好ましくないと感じられるかもしれないが、ある特定の条件では実は好都合である。

 図2は、R1を0.003〜0.012Ωの範囲で変化させた場合のレギュレータの応答を表している。負荷電流は変化量8A、変化率2.5A/μsでステップ状に変化させる。図2では、下側のプロットが負荷電流、上側のプロットが応答を表している。ただし、応答のほうは各プロットが重なって見えなくなるのを防ぐために、少しずつずらして示してある。

図2 R<sub>1</sub>を変化させた場合のレギュレータの応答 図2 R1を変化させた場合のレギュレータの応答 R1の値を変更すると、応答特性のピークツーピーク値が変化する。

 赤いプロットは、R1が最小値の0.003Ωの場合の応答である。定常状態の動作点Aでは、出力Vccはノミナル値相当の値となっている。ここで負荷がステップ状に変化する(立ち上がる)と、Vccはグリッチ状に減少する。負荷の変化に対してレギュレータの応答の変化は瞬間的には始まらず、スイッチング周波数の数サイクル分の時間を要する。また、このグリッチの振幅はC2、R2のみに依存する。

 レギュレータが応答し始めると、出力電圧は新しい動作点Bに向かう。レギュレータのこのような緩やかな応答は、インダクタの動作で近似的に表現できる。つまり、図1のモデルによりレギュレータの動作を適切に表現できるということである。

 負荷が降下の方向に変化すると、Vccが動作点Cまで急上昇する(インダクタの動作と同様である)。赤いプロットのピークツーピーク電圧は、最初のグリッチの振幅の約2倍に相当する。

 次に、R1を0.012Ωに増加させて同様に負荷を変化させる。この条件に対応する応答が黒いプロットであり、Vccはいったん低下した後、ほぼその値のままとどまる。つまり、直列抵抗が増加したことの影響が長期的に発生し、電圧降下が生じているように見える。また、負荷が降下の方向に変化すると、上述した赤いプロットの場合よりも低いレベルから、L1に起因して正方向にグリッチが上昇し始める。その際、低いレベルから上昇を始めるので、赤いプロットのグリッチのレベルまでは到達しない。その結果、この例であれば、R1が0.012Ωの場合にピークツーピーク電圧が最小になる。

 この方法を用いれば、定常レベルを上限方向にオフセットさせて、ステップ応答全体の波形を最も望ましい電圧の近くに設定することができる。

 スイッチングレギュレータを使用すれば、制御ループのゲインを下げることにより、消費電力を増やすことなくレギュレーション抵抗R1の値を実質的に増加させることが可能である。しかしこの巧妙な方法は、リニアレギュレータには使えない。

 ここで示した方法は確かに巧妙だが、このモデルのそれぞれの素子には誤差があることに注意しなければならない。あまりにも巧妙で入り組んだ条件を前提とし、素子のわずかな誤差によってシステムが不具合を起こすような設計は避けるべきである。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタル・エンジニアを対象にしたテクニカル・ワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com


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