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変容する民生機器設計市場の厳しい要求に応えるために(2/4 ページ)

» 2007年02月01日 00時00分 公開
[Ron Wilson,EDN]

要求に対応可能なアーキテクチャ

 上述したような要求に対応するための方法として、民生機器の設計ではアーキテクチャにかかわる新しい手法が採用されるようになった(図2)。それらのうち最も簡単な手法は、ほかの人にシステムを構築してもらうというものだ。つまり、完成済みのリファレンスデザインをライセンス契約によって利用するのである(別掲記事「リファレンスデザインのチェックポイント」を参照)。欧米の企業はこの手法に対して懐疑的だが、アジアでの利用は増加してきている。米Cadence Design Systems社デザインキット担当製品マーケティングディレクタのGreg McNeil氏は、次のように述べている。

 「われわれがアプリケーション専用のデザインキットを開発する際の戦略の1つは、そのキットにわれわれが『セグメントリプレゼンタティブ(segment representative)デザイン』と呼ぶものを導入することだ。これは、基本的にはIPやツールをどのように使用するかを紙の上に記述したリファレンスデザインである。それを北米の顧客に見せると、その反応は大抵、『うーん、これをアジアの企業に提供するのか』といった消極的なものとなる。一方、アジアの顧客は、『これは素晴らしい! このデザインを基に設計を開始できるというわけだね』と喜んでくれる」。

図2 設計フローの違い 図2 設計フローの違い 民生機器プロジェクトにおける設計フローは、産業機器プロジェクトのそれとは異なってきている。

  ASICベンダーである米AMI Semiconductor社戦略的マーケティングマネジャのTerry Danzer氏は、「IPプラットフォームは一層増加する傾向にある」と述べている。同社によると、顧客は常に、必要だがあまり特殊ではないIPを好んで採用してきた。しかし今では、専門分野以外のものは何でも採用しようとする傾向が強まっているという。自社の特定のハードウエアブロックの基盤となる完全なプラットフォームを構成するためのIPのセットを求めている場合も多い。

 しかし、ASSPプラットフォームは、民生機器向けに長い期間使用するには規模が大きすぎたり、コストが高すぎたり、消費電力が多すぎたりする可能性がある。利点は市場投入までの時間が短いことだけだ。

 この問題に対処するために、多くの設計チームが採用しているのはハイブリッド戦略である。「『プラットフォームアプローチ』とでも呼ぶべき手法が用いられるようになってきた」とNewport Media社のAbdelgany氏は語る。同氏によれば、「企業は比較的機能がそろったチップの開発を始め、市場特有の要求が明らかになってくると、その都度、簡単な作り直しを繰り返して小さな変更を加えていく」のだという。

  TI社のような大規模ベンダーもこの戦略をとってきた。例えば同社は、ポータブルビデオプレーヤ市場に最近参入した顧客に対し、同社のSoC製品「DaVinci」の規模を縮小し、機能を修正し、動的電圧スケーリング機能を加えたり、クロックゲーティングの使用個所を増やしたりして、より消費電力の少ない、ソフトウエア互換性のある製品を提供した。そのための労力は決して小さくはなかった。個々のモジュールの消費電力を低減するために、同社にかかわる多くの設計チームによる作業を要した。それでも、まったく新しいSoCを一から設計するよりは短時間で済んだのである。

 単にブロックを取り除き、チップコストをさらに低減させるために、より高度なプロセスへと移行するケースもある。「さまざまな設計が派生してきた」と、Cadence社のエンジニアリングサービス担当バイスプレジデントTim Henricks氏は語る。「どれも簡単だというわけではないが、一から開発するよりはコストが少なくて済む」(同氏)のだ。

  Henricks氏によると、多くの顧客は、何世代ものチップを経て製品が販売終了となるまで続く、完全なコスト削減計画に基づいてチップ設計を行うという。「このアプローチでは、採用したIPが将来においても利用可能かどうかが重要な問題となる」と同氏は付け加える。

 「特にミックスドシグナル製品に関して、IPベンダーは十分に要求が高まるまで、65nmなどの新しいプロセスへ移行するのを嫌がる。従って、高度なプロセスに移行しても、今使っているすべてのIPが引き続き利用できるという確かな保証がなければならない」(同氏)。

リファレンスデザインのチェックポイント

Gregory Eslinger 米Acoustic Technologies社

 より短期間により高度な製品を開発したいという要求がますます高まっている。それに伴い、民生機器の設計チームは、高度に統合された高品質のリファレンスデザインに頼ることが多くなってきた。リファレンスデザインは、ワイヤレス、マルチメディア、自動車、通信などのアプリケーションに適している。適切なリファレンスデザインを選択することにより、開発コストを低減し、製品の性能上のリスクを大きく減少させることができる。さらに重要な点は、例えば最大40週間といった具合に、開発期間の大幅な短縮が可能だということである。

  しかしながら、開発するシステムに適したリファレンスデザインを見つけるのは非常に難しい。最良のリファレンスデザインを選択するには、以下の項目について考慮することが重要である。

・ハードウエアプラットフォーム:ハードウエアに用いるBOMは、要求に合った適正な価格の部品で構成されているか。また、新しいパッケージに合わせて迅速にハードウエアを作り直すことができ、拡張性に対する合理的なオプションを提供しているか。

・プラットフォームがサポートするインターフェース:プラットフォームのインターフェースは一貫性を持ち、明確に定義されているか。また、十分にテストされており、サードパーティによる利用が可能か。

・システム機能を実装したソフトウエア:システムは、サードパーティ製ソフトウエアも含めて、必要な機能をすべて含むか。将来的に新しい機能が必要となったときに、ソフトウエアを追加することができるか。

・ユーザーインターフェース:ユーザーインターフェースは柔軟で簡単にカスタマイズできるか。それにより製品の差別化を実現することが可能か。

・テスト機構:最終製品の性能を簡単に測定/解析できるようなテスト機構は存在するか。

  開発期間、コスト、リスクをどのくらい軽減できるかは、主に上記5つの項目によって決まる。

  例として、TI社とカナダLyrtech社のBluetoothハンズフリーキットのリファレンスデザインを取り上げる。これは、Acoustic Technologies社、インドのAdamya Computing Technologies社など、サードパーティが保有する専門技術を統合したものであり、開発、デバッグなどの期間を短縮することができる。

  通常、Bluetoothスタックやプロファイルコードの開発やテストには数カ月を要する。すでに構築/テストされたリファレンスデザインがあれば、設計者はそのために時間を費やさずに済み、ユーザーインターフェースをはじめとする付加価値をもたらす機能の開発に力を注ぐことができる。製品が完成した後、最終製品の性能を直ちに検証することができれば、開発期間はさらに短縮される。その結果、次世代製品の開発に早期に着手することが可能になる。


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