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アイパターンは万能ではないSignal Integrity

アイパターン(アイダイアグラム)を取得したら、その目の開き具合や幅などから、伝送路の歪(ひずみ)、帯域幅、あるいはノイズの影響などを評価することができる。システム全体としてのマージンを確認するための方法としては素晴らしいものである。しかし、残念ながらアイパターンは、細かい問題に対する適切な診断方法だとはいえない。

» 2007年02月01日 00時00分 公開

 デジタルデータ伝送路の品質を評価する1つの方法として、アイパターン(アイダイアグラム)がよく使用される。図1に示したのは、最近見かけたアイパターンの一例である。これを見ると、大きなジッターが発生しており、ノイズマージンが非常に少ないことが分かる。


図1 アイパターンとステップ応答の例 図1 アイパターンとステップ応答の例 アイパターン(青色)により、大きなジッターが存在することを確認できる。一方、ステップ応答(赤色)を見ると、立ち上がりエッジの後に、信号のへこみが生じていることが分かる。

 このアイパターンは、図2に示した単純な構成のシリアル伝送系において計測したものである。この伝送系は、光ファイバ受信器(O/Eモジュール)とPHYチップ(物理層モジュール)を接続する差動シリアルリンクとして構成されている。図1のアイパターンは、図2に示すように広帯域差動プローブを使って受信側信号を計測して取得したものである。

 図2のレイアウト設計には特に問題がないように思える。O/Eモジュール、物理層モジュールともに、信号線は、BGAパッケージの隣接するボールを用いて差動パターンとして単純な形状で直結されている。賢明なレイアウト設計者が手掛けたことから、差動信号パターンはビアをまったく経由せず、基板の表面層のみで短く配置されている。にもかかわらず、アイパターンを見るとひどく状態が悪い。

図2 測定の対象とした差動伝送系 図2 測定の対象とした差動伝送系 このような単純な回路でも、信号が高速になると複雑な応答を示す。

 アイパターンは、信号を微小期間で何度も取得し、それらを重ね合わせたものである。オシロスコープで信号を観測する際、最初に1つの微小期間で信号をとらえ、次に2つ目の期間で信号をとらえ、ということを繰り返し、各ビットのタイミングを合わせて表示する。このようにして、起こり得るすべてのビットパターンに対する微小期間信号を蓄積し、重畳させて表示するのである。

 アイパターンを取得したら、その目の開き具合や幅などから、伝送路の歪(ひずみ)、帯域幅、あるいはノイズの影響などを評価することができる。システム全体としてのマージンを確認するための方法としては素晴らしいものである。

 しかし、残念ながらアイパターンは、細かい問題に対する適切な診断方法だとはいえない。アイパターンは全体としての特性を示してくれるが、不要な情報が過剰なまでに重畳される。そのため、どのビットパターンのエッジがどの問題の原因となっているのかといった判断には向いていないのである。

 それに対し、ステップ応答試験であれば、何が問題なのかを直接的に知ることができる。この試験では、長い0区間/1区間が繰り返されるステップ信号を印加して信号を測定する。実際の試験時には、ランダムノイズの影響を除去するために、取得した信号に対して垂直軸方向のアベレージングを行うとよいだろう。こうしたステップ応答試験により、各ビットのレベル遷移に伴って生じる問題点を正確にとらえることができる。

 図1の赤色のプロットは、ステップ応答を表している。これを見ると、立ち上がりに続いて負の方向に向かう“へこみ”があることが分かる。このへこみは、立ち上がりエッジの中間点から、約400psの位置で最小になる。これはおそらく反射に起因するものだと考えられる。このへこみの原因については、次回検討することにしよう。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタル・エンジニアを対象にしたテクニカル・ワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。 www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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