消費者の財布の紐を再び緩めるためには、画素数のほかにどのような特徴を売りにすればよいのか。DSCやビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機などの製品を扱う企業は「レンズ」に着目した。
多くの消費者は現状のオートフォーカス機能には満足していない。イメージ内で不適切なフォーカス面を選んだり、そこに到達するまでに時間がかかりすぎたりするからだ。レンズの口径を絞って、焦点深度を深くすることで、鮮明な画像が得られる可能性は高まる。しかしこの方法だと、ユーザーがカメラを支えたまま、微光設定で鮮明な画像をキャプチャすることができないほどにシャッタスピードが遅くなる。従って、この方法を用いるには、電池を消耗させ、かつカバーできる範囲が不十分なことが多いフラッシュを使用する必要がある。
見る人の注意を被写体に向けるために、イメージの前景と背景を意図的にぼかしたいユーザーにとっては、ディープフォーカスも厄介なものかもしれない。そのため、メーカーはこの問題の解決に注力しつつある。最近のカメラは、特に「ポートレート」モードに切り替えられているとき、視野内の顔を自動的に検出し、それに合わせて自動フォーカスと自動露光の両方を適切に設定する。
モーター駆動式のフォーカスとズームによる消費電力の問題の新たな解決策の1つに、液体レンズ技術がある(図1)。フランスのVarioptic社をはじめとする企業と、IMRE(Institute of Materials Research and Engineering)などの研究機関がこの技術を推進している。液体レンズは人間の眼のような動きをする。周囲の“筋肉”が巧みにその形を変え、光学特性を変化させるのである。Varioptic社のプレスリリース*5)には次のように書かれている。
「当社が開発した液体レンズはエレクトロウェッティング現象に基づいている。薄い絶縁層に覆われた金属製の基板上に水滴が付着し、基板に印加される電圧によって液体の接触角度が変わる。液体レンズは2種類の等密度の液体を利用する。1つは絶縁体で、もう1つが伝導体である。電圧の変化が液体間の曲率を変化させ、それによってレンズの焦点距離が変わる」。
レンズの口径を絞ったときに直面するような光透過量の減少という問題を回避しつつ、ディープフォーカスを5〜10倍にしたいと考える人もいるだろう。それならば、米OmniVision Technologies社が2年前に米CDM Optics社を買収したときに手に入れたWavefront Coding技術をチェックすべきだ(図2)。この技術は現在、「TrueFocus」という名前で知られている。CDM Optics社の共同創設者で現在同社社長を務めるEdward Dowski博士は「Wavefront Coding技術は、光学、センサー、信号処理をうまく組み合わせてシステム全体を最適化し、小型パッケージにもかかわらず高品質で低コストのイメージングを可能にする」と語る。イメージキャプチャの役割の大半を画像プロセッサに移したことで、低価格プラスチックレンズの怪しげな品質を補償したり、温度変化や製造のばらつきに対応したりすることができる。
もちろん、この技術はOmniVision社の光学機器やイメージセンサーに採用されており、それらにはオンチップの画像プロセッサが使われている。しかし、同社製品マネジャのMichael Hepp氏は、「ほかのセンサーやプロセッサのサプライヤも、概念的に似たアプローチの製品を開発している」ことを認めている。この事実を反映するかのように、米Nethra Imaging社のバイスプレジデントでチーフイメージングサイエンティストのPing Wah Wong博士は、「特殊な設計が施されたレンズを使い、その後段で歪を打ち消す画像処理機能を利用するデジタルフォーカス技術は大きな可能性を秘めている。その理由は、この技術によってレンズ部のオートフォーカス機構をなくすことができるからだ」と述べている。Wong博士のこの意見に対し、米Texas Instruments(TI)社デジタルカメラソリューショングループの最高技術責任者であるClay Dunsmore氏は、「品質要件を光学領域からデジタル画像処理領域に移すことで、レンズはもっと小さくできる。デジタル画像処理によってコーナー照明や幾何学的歪などの問題も解決可能だ」とコメントしている。
消費者は、カメラを何台も購入したくないので、できるだけ融通の利く製品を欲している。また、重すぎず、大きすぎないポケットサイズを好む傾向にある。OmniVision社のHepp氏は、「米Motorola社の超薄型携帯電話機『RAZR』が、特に携帯端末に対する米国消費者の期待に大きな影響を及ぼしている」と述べている。残念ながら、フィルタのように光学機器の前に取り付けられる補足的な広角レンズと望遠レンズは、不便で、余分なコストがかかり、品質が低下しやすいといった問題を抱えていた。そして、いわゆるデジタルズーム(補間機能)は姿を消しつつある。この機能については「ないよりもマシだ」との意見もあるが、特に高速キャプチャを行う際、DSCやビデオカメラの処理環境が制限された状態では、標準以下の画質しか得られない。
光学レンズに関するいくつかの技術によって、多様化する顧客の要求に応えられるかもしれない。米Eastman Kodak社の「EasyShare V705」は、2枚のレンズと2つの710万画素センサーによって光学問題に取り組んだ製品である(図3)。
光学機器の開発をより革新的なレベルにまで持っていこうと、カリフォルニア大学の研究者らは最近「origami(折り紙)」レンズを発表した(図4)。このレンズは、天体望遠鏡に使われている反射鏡技術に基づいており、フッ化カルシウムでできた5mmのディスクの上に作られている。このレンズを使えば、特定の焦点距離と焦点範囲を実現するために必要なカメラの厚みを減らすことができる。同大学サンディエゴ校に在籍するEric Tremblay氏は、「従来のカメラレンズは、多くの異なるレンズ素子を組み合わせることより、鮮明で高画質なイメージを作り出していた。われわれもそれと同じことをしたわけだが、レンズ素子を互いの上に折り畳むことで、光学部分の厚みを減らしている」と説明する*6)。8倍イメージャの焦点距離は38mmで、2.5m先の物体にフォーカスできるが、従来のマルチ素子レンズの1/7程度の厚さが実現されている。
※5…Technology Presentation, Varioptic.
※6…Kane, Daniel, "Origami Lens'' Slims High Resolution Cameras," UCSD News Center, Jan 30, 2007. "De Broglie Hypothesis".
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