「インターフェース」という単語は、ここまでに説明した「負荷を駆動するもの」という意味以上のものへと進化した。現在では、この単語は、デジタルシステム同士を接続する規格のことを指すのが一般的だろう。例えば、RS-232はこの種の規格のうち最も古いものの1つである。初期のシリアルインターフェースICがサポートしていた規格としては、ほかにRS-422やRS-485がある*4)、*5)。図3に示すように、RS-232では送信用と受信用にそれぞれ1本のワイヤーを使う。一方のRS-422は差動方式の通信を行うため、送受信に2本の差動ペアを必要とする。その利点は、通信可能な距離が数キロメートルと長いことと、1つの送信元に対し最大10個の受信先を持つことができることである。RS-485の差動インターフェースは、送信と受信を同一のワイヤーペアで行い、1つのバス上で32個の送信元と受信先をサポートすることができる。
RS-232など旧式の規格の問題点は、設計者らが必ずしもそれらの規格に厳密に従っていないことである。コネクタのピン配置に関しても、送信の電圧レベルに関しても、規格に厳密に準拠していないさまざまな製品がある。特にRS-232は、モデムとコンピュータに接続するために使用されていたので、2台のコンピュータ間やコンピュータと周辺ドライブ間の接続に利用するのにRD(ring detect)信号を必要としないという理由でこの信号をサポートしていないものが多い。また、コネクタのオス/メスやケーブルのオス/メスにもさまざまな構成があり得ることから、RS-232は、「規格のない規格」とも呼ばれる。
この点について、前出のMassa氏は、「RS-232インターフェースは、規格で定められた動作電圧±12Vではなく、5Vの設計で利用されることが多い」と指摘する。その理由は、「一般的なRS-232受信側の入力回路では、入力をオンにするために0.6Vという1つのダイオード降下電圧しか必要としないので、5Vでも12Vと同じ効果が得られると多くの設計者が思っているからだ」(同氏)という。同様に、信号が−12Vではなく0Vになると、入力がオフになると考える設計者が多い。しかし、Massa氏はこの考え方は誤りだと指摘する。「RS-232インターフェースを5Vで動作させるのは規格に反しているということを覚えておいてほしい。5Vでは耐ノイズ性は低下するし、通信可能な距離もかなり短くなる」と同氏は語る。とはいえ、「2フィート(約61cm)のケーブルでパソコンを接続したいだけならば、RS-232インターフェース上で5Vの信号を機能させることは確かに可能だ」(Massa氏)という。
米Maxim Integrated Products社などは、5Vで動作するRS-232インターフェースICを販売している。この種のチップでは、内蔵のチャージポンプが±10V以上の電圧を生成し、また15kVのESD(electrostatic discharge:静電気放電)保護機能を提供する。このようなかたちで規格に準拠したインターフェースICで、さらにはフォルト保護機能も付いているなら、設計者は安心を得ることができる。
古くからあるRS規格がどれだけ人気が高く、普及しているかは、この分野におけるTI社の製品群を見れば分かる。同社は、約25米セントのデュアルラインドライバから3つの差動トランシーバチャンネルを持つ数米ドルの部品まで、63種のRS-422部品を提供している。TI社のRS-232製品ラインは95種の製品ラインアップから構成され、25セント未満のドライバから、チャージポンプやESD保護機能付きで4米ドル以上の完全なインターフェースICまで提供されている。RS-485規格については、TI社はさまざまな機能を持つ101種の製品を提供している。
現在ではこれら旧式のRS規格に加えて、USB(universal serial bus)や米Apple社が開発したFireWireなどのより高速な規格が存在する。これらのバス規格は、RS-485規格よりも非常に高速で高機能である。USBやFireWireは、電気的インターフェースを標準化しただけでなく、より高レベルのプロトコルも標準化している。旧式のシリアル通信ポートは、電気的/物理的仕様は異なるが、プロトコルとして今でもUSB規格の中に存在している。
USBのような新しい規格においても、対処すべき問題は旧式のRS規格の場合と同じである。例えば、デジタルシステムからのケーブルが長いと、旧式の規格と同じ問題が生じ得る。つまり、ケーブルがEMI(electro magnetic interference:電磁波干渉)やRFI(radio frequency interference:無線周波数干渉)を受け、システムが誤動作したり、システムのノイズをケーブルが放射したりする可能性があるのだ。また、インターフェースICにESD保護機能がなければ、人間やほかのシステムからのESDによってシステムが影響を受ける可能性がある。
USBやFireWireは広く使用されているため、膨大な数のベンダーがそれぞれに準拠したインターフェースICを製造している。また、USBは電力供給もサポートするため、ベンダーからはUSBポート内の電力線を管理/保護するインターフェース回路も提供されている。例えば、米Raychem社と米Fairchild Semiconductor社は、この用途に向けて、それぞれヒューズとスイッチを提供している。
・差動伝送インターフェース
チップとサブシステム間でさらに高速にデータを送受したいという要求から、差動伝送方式が普及した(図4)。この方式では、長い通信距離においてインピーダンスを制御し、電流のバランスを維持する。米Shugart Associates社が1979年に開発したディスクドライブのインターフェース規格であるSCSI(small computer system interface)は、この手法を具現化したものである。SCSIは1986年に規格化され、米Apple Computer社(現Apple社)がApple IIで使用していた*6)。TI社は、SCSIに対応したインターフェースICも提供している。
差動伝送はその有用性と利点から、SATA(serial advanced technology attachment)やPCIe(peripheral component interconnect express)にも採用されるようになった。これらの差動インターフェースの多くがLVDSを応用している。業界では当初、ノート型(ラップトップ型)パソコンの液晶パネルをビデオチップに接続するフラットケーブル内の信号に対し、LVDSによる差動信号を用いていた。このような差動伝送は、信号ペアが密接に結合されているため、電磁波の放射ノイズが少ないという利点を持つ。このため、民生機器の放射ノイズに関する、FCC(Federal Communications Commission:米連邦通信委員会)やCEの厳しい基準を満たし、高速伝送にも対応できた。
米National Semiconductor社も、早くからLVDSを採用し、産業用カメラを映像取得用ハードウエアに接続するためのCameraLink規格にこれを使用していた*7)。SCSI、SATA、PCIe、LVDSでは、高電圧を用いずに、距離の離れた2つのデジタルシステムを高速に接続する。CameraLinkの通信距離は数メートルだが、LVDSケーブルを適切にシールドすれば、数百メートルの距離にも対応できる。National Semiconductor社は、LVDSチップの優れたポートフォリオを提供しており、TI社やSTMicroelectronics社など多くのベンダーもこのような製品を供給している。
LVDSインターフェースの特殊な形であるSERDES(シリアライザ/デシリアライザ)は、コンピュータバスや数バイトの映像データなどのパラレルデータを高速LVDSペアへとシリアル化する。このようなチップは、通常1ギガビット/秒以上の転送速度で動作する。シリアライザは、パラレルデータをシリアル信号に変換して差動ペアによって送信する。デシリアライザはシリアル信号からクロックを抽出し、さらにシリアル信号に含まれるデータをパラレルデータに変換してパラレルバスへと戻す。National Semiconductor社、TI社、米Intersil社、Fairchild社など多くの企業がこのようなチップを供給している。
今日では、このようなSERDESチップは、画面とカメラ用のデータを端末のヒンジ部分を介して転送しなければならない携帯電話機でも使用されるようになってきている。SERDESには、低速のパラレルバスを使用するよりも、1つの高速な差動ペアを用いるほうがノイズや静電対策などの処理が容易であるという特徴もある。
※4…"RS-232, RS-422, RS-485 - Differences and Typical Applications," Omega Engineering. http://www.omega.com/techref/das/rs-232-422-485.html
※5…"Quick reference for RS485, RS422, RS232, and RS423". http://www.rs485.com/rs485spec.html
※6…SCSI. http://en.wikipedia.org/wiki/SCSI
※7…"Camera link". http://www.siliconimaging.com/ARTICLES/CameraLink.htm
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