電源回路の制御処理をデジタル化するニーズが高まっている。だが、そのすべてをデジタル化するのは処理速度やコストの面で現実的ではない。アナログ回路とデジタル回路を適切に組み合わせることで、最良の電源回路を実現できる。
アナログ回路とデジタル回路を組み合わせた電源ICが一般化しつつある。特に2次電池への充電の用途では、従来からデジタル回路を用いた機能の必要性が取りざたされていた。この種の電源回路の制御系のすべてを純粋なデジタル回路に置き換えるのは、処理速度およびコストの問題から実用性の面で無理がある。そうではなく、アナログ回路とデジタル回路を混在させた回路を適用することで、それぞれの長所を活用できる電源制御システムを構築できる。
過去を振り返ると、電源の制御/管理はアナログ回路のみで行われていた。最近ではマイクロコントローラが小型化/低コスト化しており、それによって実現できる高度な機能を電源制御システムに組み込もうとする動きが活発になっている。例えば、デジタル回路によって実現できる電源機能には、ホストとの通信や、出力電流/電圧の制御、故障の診断/対処、タイマー、ハウスキーピング(過小入力時のロックアウト、起動/停止の監視、リセットタイミング信号の発生、過電圧保護などを含む)などがある。一方、アナログ回路によって実現できる機能としては、MOS FETを用いたドライバ、電流検出、温度モニターなどが挙げられる。本稿では、電源回路におけるアナログとデジタルの使いどころを具体的な用例を挙げて解説する。
まず、電源回路の各所でデジタルとアナログがどのように用いられているか、その違いを見てみよう。
純粋なデジタル回路によるPWM(pulse width modulation)制御では、デューティ比をアルゴリズムによって決定する。まず、直前のデューティ比の値を記憶しておき、次にそのデューティ比による出力(結果)と、それに対応する計算で求めた出力設定値との間での誤差を算出する。また、複数のスイッチングサイクルにわたった変化率も求める。これらの値から次のデューティ比を決定するといった処理フローになる。
一方、アナログ回路を基本としたPWM制御では、1個の高速コンパレータを用いてデューティ比を決定する。例えば、ランプ波形とエラー信号をコンパレータによって比較することでデューティ比を変更することが可能である。このエラー信号を用いた線形制御システムの応答速度の限界は、制御ループの時定数とゲインに依存することになる。
シンプルなDC-DCコンバータの場合、アナログ回路をベースとした構成が一般的である。一方、例えばハイエンドのモーター制御では、デジタル制御を用いることによってアナログ制御では得られない数々の利点を得ている。例えば、通信を介してシステム側からモーター速度を制御したり、制御に必要なさまざまなデータをセンシングして制御システム側でモニターしたりするといったことだ。
電源回路をアナログ制御にするかデジタル制御にするか、その選択に当たって考慮すべき要素はサイズとコストの2つである。これらのうち、サイズは基本的に電力容量によって決定される。すなわちフィルタを構成する受動部品の電力容量によって決まる。特に、降圧コンバータの場合であれば、そのサイズは入力用コンデンサ、インダクタ、出力平滑化用のコンデンサに依存する。また、これらの部品のサイズはスイッチング周波数から大きな影響を受ける。
高いスイッチング周波数のDC-DCコンバータに対してデジタル制御を適用する場合、デジタル信号処理の速度と分解能によって性能が制限される。例えば、出力電圧精度が1%でスイッチング周波数が500kHzのDC-DCコンバータをデジタル制御する場合には、PWM回路の動作周波数は284.4MHz以上必要である。このような動作周波数の回路は消費電力も大きい。従って、この方法は、待機時の消費電力を重視する電池駆動機器の用途では非現実的である。
だが、大電力でスイッチング周波数の低い電源ならば話は変わってくる。デジタル技術を用いなければ実現できないような機能を必要とするならば、デジタル制御が現実的な選択肢となる。実際、力率補正機能(PFC:power factor correction)付きのAC-DC電源では、EMI(electromagnetic interference)規制外の周波数である125kHz程度のスイッチング周波数を用いて、電源システム全体にデジタル制御を採用する動きが加速しつつある。
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