高速な立ち上がりエッジのステップ信号を均一で長い伝送線路に入力する状況を考えよう。入力された信号は伝送線路中を均一な速度で、無視し得る程度に小さい損失を伴って伝搬すると仮定する。
図1(a)、(b)は、それぞれ時刻t1とt2における伝送線路上の現象を静止画的に描いたものだ。各図は、それぞれの時刻における伝送線路上の電圧と電流の分布を表している。時刻t1では立ち上がりエッジの中央がx1の位置に到達し、x1の手前までは電圧がVCCのレベルとなっている。時刻t2では、立ち上がりエッジの中央がさらに進んでx2の位置まで到達している。立ち上がりエッジが位置x1からx2に向けて進むに連れ、その間にある寄生容量がグラウンドレベルからVCCのレベルまで充電される。
図では伝送線路をインダクタLと容量Cで構成されるラダーモデルとして表現している。これらは、伝送線路の寄生成分として存在するインダクタンスと容量を表している。この例のように、立ち上がりエッジがラダーの数段分よりも広い範囲に及ぶなら、このLCラダーモデルによって、プリント配線板上の伝送線路(パターン)におけるデジタル信号の伝搬の様子を正確に模擬できる。
x1からx2までの間に存在する容量の電圧がVCCまで上昇する条件は、時刻t1とt2の間で十分な電荷が供給されることである。この例では、必要な電荷はドライバから供給される。言い換えれば、ドライバが唯一の電荷の供給源である。
無損失で信号の伝搬が行われるという仮定は、その立ち上がりエッジが何らの劣化を生じることなく一定の速度で一定の振幅で伝搬するという意味である。この仮定が成立するならば、立ち上がりエッジは任意の単位時間内にそれぞれ同一量の容量を充電するということになる。言い換えれば、任意の単位時間内に同一量の電荷が回路に流入されなければならないということである。回路に一定量の電荷が定常的に流れ込むには、ドライバから供給される電流が一定でなければならない。つまり、ステップ信号のエッジが伝送線路上で均一に伝搬するには、ドライバから一定の電流が供給されなければならないということだ。
この条件が満たされるということは、短い時間においては伝送線路の入力インピーダンスは純粋な抵抗に見えるということを意味する。そうであれば、印加電圧のステップ変化に追従して一定の電流が流れる。逆に、一定の電流を要する回路があったとすると、その回路は抵抗と同じように見えなければならないということである。
伝搬が無損失であることと入力インピーダンスが抵抗性であることとは不可分の関係にある。入力インピーダンスが純粋に抵抗性でなければ、無損失伝送路は実現できないのである。限られた短時間内に完了する信号の立ち上がり、クロストーク、グラウンドバウンスなどの現象に対しては、プリント配線板のパターンは純粋な抵抗性のものとして振る舞う。
なお、伝送路の終点に立ち上がりエッジが到達した後は、信号源に向かって反射成分が戻って来ることになる。このときの現象にはそれまでとは異なる点がある。すなわち、伝搬はもはや一様には行われなくなり、入力インピーダンスは純粋な抵抗性ではなくなる。
Howard Johnson
Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。
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